小説『フェンダー』
作者:あさひ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第二章 砂の城壁


未央は刑事としての働きぶりを、山川を始め刑事課の多くの人間に認められ始められていた。しかし未央は不服だった。

「またセクハラ事件ですか?しかもまた男がされてる側。」
未央は愚痴を山川にこぼした。
「仕方ないだろ、そういうご時世なんだから。」
「ろくな女がいない。」
「当たり前だろ。男にセクハラする女がまともだと思うか?」
「分かってるんなら聞かないでくださいよ?。」
「こういう事件には女の勘が必要なんだよ。」
未央はぶつぶつ言いながら山川から資料を受け取った。そして事情聴取に繰りだしていった。


ある日、セクハラ事件の事情聴取の準備をしている未央に一本の電話がかかってきた。
「はい、府川署です。」
未央が電話に出ると
「緒方未央さんですか?」
と甲高い小さい子の声が電話の向こうから未央の耳に聞こえてきた。未央は「はて?」と思ったが
「はい、私ですが。」
と丁寧に受け答えた。
「僕の好きな人を守って。」
「へ?」
「藤崎おとめちゃん。」
「おとめちゃん?」
未央は
(なんか聞いたことある名だぞ。)
と思った。
「君はなんていう名前?」
「前田哲!」
「哲くんね。それ・・・、どういうこと?」
「知らないの?おとめちゃんは演歌歌手でお姉さんに守られるんだよ?」
「はい?」
「絶対守んなくちゃダメなんだよ。」
未央はわけがわからなかったが、ここは大人としてしっかり受け流しておこうと思った。
「うん、分かった。お姉さんが必ず守るから哲くんは安心して。」
「あ?よかった。僕未央お姉さんを信じてるから。」
そう言うと少年はさっさとその電話を切った。
未央はインターネットを使ってその藤崎おとめ、という演歌歌手について調べてみた。
六歳の子供演歌歌手で今や相当の売れっ子になっていた。誰かがテレビ番組でおかしな情報でも流したんだろうか、それともあの男の子の頭がおかしかったのだろうか、などと未央は考え込んでしまった。

その日から府川署にいくつも電話がかかってきた。ほとんどが「藤崎おとめちゃんを守って」という未央あてのメッセージだった。


とある日、未央は山川に呼び出され、セクハラの件は別の人間に託し、「藤崎おとめのボディーガード」に従事するよう命じられた。
「一体どういうことですか?」
未央は驚いて山川に問いかけた。
「今度の土曜日にでも藤崎おとめが出てくるTV番組でも見てみなさい。君、美園未来っていう占い師知ってる?」

-17-
Copyright ©あさひ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える