小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「確か有名占い師ですよね?この前捜査の関係で本を買った後にその本屋でぶらぶらしていて見つけたんですよ、彼女の本。」
「それがね、彼女が[七歳の藤崎おとめが彼女の殺人を企てる殺人鬼の陰謀をボディーガードの未央という刑事が妨げる]っていう予言をしてて・・・、その女の予言は常にあたるらしくってうちに助けてあげてっていう電話が殺到してるんだよ。」
「なんですかそれ・・・!?山川さんは信じますか?そんな女の言うこと。」
「僕は占いには通じてないからね。」
山川は苦笑いした。
「ま、これも一つの仕事ってやつだ。御客さんの要求に応えてあげなさい。」
未央は肩を落としてうなずいた。
「ところでその子が七歳になるまであとどれくらいなんでしょう?」
「あと三ヶ月だ。そこで、君にはしばらく射撃の練習をしてもらう。」
「射撃?それって刑事の仕事じゃないじゃないですか?」
「相手は殺人鬼だぞ。いくら予言があたるとはいっても、その辺のことは僕の言うとおりにしてもらう。分かったか?」
「はい・・・。」

その翌日から未央は警察官と一緒に射撃の練習をすることになった。未央は集中力のある人間であり、未央の射撃の上達ぶりに周囲の警察官たちは感心していた。
「ふう。」
未央は射撃の練習の後、ヘルメットをとって汗をぬぐい、(こういうの高校生の時以来だな)と懐かしい気持ちになった。未央は高校生の時、弓道部で汗を流していた。


―土曜日の夜
未央は山川に言われた通り、藤崎おとめが登場するTV番組を観てみた。そこにおとめが映っていたが、おとめの顔はひきつっており、彼女がとてつもない不安に襲われていることが未央にはすぐに分かった。
司会者が
「未央という刑事がおとめちゃんを守ってくれると約束してくれたそうです。よかったですね。」
と言い、マイクを司会者の前の椅子に座っているおとめに向けると、おとめは安堵感に満ちた表情で
「はい。」
と答えてうなずいていた。しかしその直後またひきつった顔に戻ってしまった。
すると、その横に座っている少し小太りで白髪をうっすらと紫色の染め涼やかな顔をしたおばあさんが話を始めた。
「私は夢で見たんですよ。その女刑事がおとめちゃんの敵を懲らしめるところをね。」
(懲らしめる・・・。)
未央はお風呂に入って湿りっぱなしの髪の毛を首もとのバスタオルで拭き拭きTV番組を眺めていた。
「では、おとめちゃんの演歌を歌う姿をどうぞ。」
と司会が言うと、おとめの四歳からの演歌を舞台で歌う姿が過去に遡り、それから新曲に至るまで放映された。
「ふ?ん、結構うまいのね?。」
未央はそのおませなおとめの声色と舞台の演出にすっかり感心していた。未央はそのTV番組を見終えると、さっさとTVを消し、ノートに射撃練習の反省文を書きこんだ。未央は土曜日には射撃の個人練習を行っていて、日曜日以外は毎日こうして自分の射撃のスキルや上達具合を落ち着いて検討することで効率的なステップアップを図っていた。その甲斐もあって、未央は着実に射撃の腕を上げていった。


―三カ月後
未央はおとめのボディーガードに配属された。何かあったら山川の携帯もしくは刑事課の電話に連絡するように山川に申しつけられている。今日は七歳になったおとめが夕方の生の歌番組に出演するということで、未央はそれを手始めに付き添うことになった。トイレに行く時も食事する時も一緒にいるため、二人はお互いのことをよく知った。おとめは舞台やTVカメラの前では力強く歌っていたが、根は内気で自分の意見を相手に伝えるのが少し苦手な少女だった。ただ、目もとには気の強さが現れており、未央はそのことに気が付いていた。

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