小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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そして小林は未央に自分の名刺を渡して話を続けた。
「今まで何かありましたか?」
「いえ、まだ何も起きてはいないです。」
「まだ二日目ですからねえ。小学校にも付き添うつもりですか?」
「そのつもりです。」
「刑事さんというのは地を這うような仕事ですなぁ。」
未央は
(嫌味か!?)
と思ったが
「えぇまぁ・・・。」
と答えておいた。未央は念のため携帯電話の小林の連絡先を登録しておいた。
「十時十五分になったらまた来るんで、それまでリラックスしていて下さい。」
そう言うと小林はおぼんを抱えて控え室から出て行った。

「小林さんってどんな人なの?」
「優しい人。時々お菓子とかマンガ用意してくれるの。」
「ふ?ん。」
未央はもらった名刺を眺めながらそう言った。

未央は外にいる人間が少し気になり、茜を座らせたままにして立ち上がり、ドアを開けて周辺を見渡した。見覚えのある芸能人やそれ以外の人が幾人か輪になって話をしており、何度か人が通りすぎて行った。
(ラジオ局に来ているっていう可能性も無きにしもあらずよね・・・。)
未央はふとドア脇の張り紙が気になった。その紙から何かの紙の端が未央の方に向かってはみ出していた。名刺くらいの大きさの紙が両面テープで張り付けられており、未央は一度セロハンテープで張られている張り紙を取り、その紙を指の力ではがし取った。そしてそっと張り紙を元の状態に戻し、その紙を眺めた。その紙の裏に、
[果たし状 今こそ復讐を遂げるべき  悪魔の僕よ、消え去れ]
と記されてあった。
(これは私に対する果たし状だ。あの子のどこが悪魔っていうのよ。)
未央はむかむかし、少し気持ち悪がりながらポケットにひそめた。
「お姉さんどうしたの?」
怒りむきだしの未央に茜が問いかけた。
「ううん、ちょっと花粉で鼻がむずっとしただけ。」
「ティッシュあげようか。」
「持ってるからいい。」

未央は控え室に戻って茜のそばに座り、考え込んでいた。
(今日私たちを狙うってこと?・・・私がこの子の敵を懲らしめるってことは、もしそうだとしてもこの子にラジオのお仕事をさせて問題ないってことよね・・・。でもそれは予言に過ぎない。でもそもそもこの任務は予言がきっかけ。あぁこういうの困るよな・・・。なにがともあれおとり捜査をするにはこの子には酷・・・。私にできることはしておかなきゃ。)

未央は
「ちょっと大事な用だから。」
と茜に告げて席を外した。
そしてドアの外に出て山川に電話をした。休日であったが、今度は山川がすぐに電話に出た。
「ラジオの方はどうだ?」
「出てくれましたか。」
「僕の奥さんも息子の友達と遊びに行ってもらってるの。」
「はいはい、のろけはいいので。
実は・・・」
と事情を未央は山川に説明した。
「できるだけ早く制服を着た警察官をそちらに登用するよ。もしものために報告はしてあるから。マネージャーやラジオ局の人間には僕から言っておくよ。」
「お願いします。あと、山川さんにお願いがあるんですが、良いでしょうか?」
「何?」

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