小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「メールするんで後で見て下さい。ここで言えることではないので。」
「分かった。」
電話を切った後、急いで未央は携帯を通じて山川のパソコンに茜の本名のこと、茜が今の母親の本当の子供ではないこと、茜の素性の詳細を調べてもらいたい旨をメールで伝えた。そして何事もなかったかのように控え室に戻った。その数分後、小林が茜と未央を呼びに再び控え室を訪れた。小林がうなずいて未央に合図をした。そしてうすっぺらな紙を手渡した。「周辺の人間には、警察官の件も伝えましたし不審な人間がいたら追い出すように言ってあります」と書いてあった。どうやらもう警察はこちらに向かっているようだった。

未央は茜がラジオに出演している間じゅうずっと懐の銃を握り締めていた。警察官たちもひきつった顔で周辺を見回していた。しかし、ラジオの放送が終わっても何も起こらなかった。だが未央は、このラジオ局で茜の命を狙っている人間が間違いなくいるということを確信した。


ラジオ放送が終わり未央と茜が控え室で帰る準備を整えていると、未央の携帯に山川から電話がかかってきた。未央は茜に
「ちょっと電話。」
と言って茜のいるところでその電話に出た。
「はい、もしもし。」
「大変なことが分かった、もしそこに子役さんがいたら話声が聞こえないところに行ってあげてくれないか。」
「分かりました。」
未央は携帯のマイクを左手で抑え、茜に
「重大な事だから。」
と告げて控え室の外に出た。未央がマイクから左手を外し
「どうぞ。」
と言うと山川は話を続けた。
「大変だ。その坂下茜っていうのは昔孤児院にいたらしいが、さっき孤児院に出かけて本当のご両親のデータをもらったんだが、父親である坂下正行の父親つまり茜ちゃんのおじいちゃんに当たる男が毒を盛って人を殺している。しかも蓮磨教という宗教団体の教祖で、相手は知られていない宗教団体の幹部なんだよ。」
「つまり、その二つの宗教団体は争っていて、その殺された幹部の人間のいた宗教の信者である何者かが復讐のためにおとめちゃんの命を狙っているということですね。」
「おっとおとめちゃんと言うべきか。恐らくそういうことだ。」
すると突然、
「おとうさ?ん、遊びに行こうよ?。」
電話の向こうで少年の声がした。
「あれ?息子さんですか?」
「来週な。向こう行ってろ、大事な事件抱えてんだ。」
「来週?」
「おっとごめん、友達が風邪気味だったらしくて。明日には事件が解決するかもしれないからな。」
と山川は陽気な声で言った。
「どういうことですか?」
未央は頭の中が混乱してしまった。
「ちょっと作戦があるんだよ。そろそろおとめちゃんのところに戻った方が良いだろ。後はメールで送るから少し待ってて。」
と言うと山川はさっさと電話を切った。
未央が茜を連れて車で茜の家へ戻り携帯を開くと、山川からメールが来ていた。未央は部屋着に着替えて茜たちと食事を済ましてからそのメールを開いた。
「なるほどね・・・。」
未央は自分の小部屋から出て茜の部屋に行った。
「あ、お姉ちゃん、どうしたの?」
茜は自分のベッドの上でマンガを読んでいた。未央はその隣に座って
「今から言うことをよく聞いて。」
と言ってからさらに話を続けた。

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