小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「明日の給食は青空の下で食べる青空弁当なの知ってる?」
「うん、友達がメールで教えてくれた。」
「おとめちゃんは弁当をもらっていいけど、それを食べちゃだめ。」
「もしかして。給食のおばちゃんが私を殺そうとしてるの?」
「ううん、でも残念ながら別の人がね。でもその人は病気で頭がおかしくなっていて、本当はおとめちゃんのファンなのに頭がおかしくなっちゃってそういう行動に出るの。」
「なんで頭がおかしくなっちゃってるの?」
「そういう病気だから仕方がないの。考えることと行動が一致しないの。もう恐怖から開放されたいでしょ。」
「うん。」
茜は深々とうなずいた。
「弁当をもらったらすぐに校門に向かって走って来て。」
「分かった。」
「それから、明日は十二時五十分に登校。」
「へ?」
茜は怪訝そうな顔をした。
「この私に任せて頂戴。」
未央は茜に軽くウインクしてみせ、自分の部屋に戻った。
(あの子にはいつか真実を教えるべきなのかしら・・・。)
未央は部屋の壁によっかかって一人自分に問いかけていた。


―翌日
朝食の後、未央は小学校の茜の担任の先生に電話をし、茜が午前中の仕事の用で遅刻して学校に行くということと、仕事先で昼ごはんが茜に出ないため弁当を確保しておいてほしい、という嘘の報告をした。茜は未央に言われて風邪でうなされているふりをした。未央にとっておとりにする人間の母親を説得することは至難の業であった。未央は予言と自分の銃の腕を確信していた。

未央は時間になると作業員のような格好をし、そのポケットに枝ばさみを入れた。これらは山川が速達で送ってくれたものだった。また、その中に五台の小型監視カメラもあった。茜のお母さんは何かの作戦のためだろうと思ってそれを取っておいてくれた。茜に学校に行きたがっている演技をお母さんの前でさせ、お母さんの了解を得て茜に学校に行く準備をさせ、車に茜を乗せて学校に向かった。

未央は学校の近くにある駐車場に停め、
「ここで待ってて。」
と茜に告げて車に茜を乗せたまま車から出て、学校の校門を乗り越え校庭の庭木を整えているふりをしながら校庭の弁当が積み重なった机の周辺の木立に監視カメラを数台しかけた。しばらくの間、未央は監視カメラをチェックしながら校庭の低木の剪定をしていた。そして頃合を見計らって車に戻り、
「それじゃあ弁当をもらってきて。」
と車の中で不安げな顔をしている茜の肩にポンと手を置いて言った。
「大丈夫、私が校門で見張ってるから。」
茜はうなずき、車から出て未央を一緒に校門へ向かった。そして校門にたどりつくと、
「ここからは一人よ。」
と未央は茜に言った。茜が泣きそうな顔をすると、未央は作業着の中で胸元の銃を茜の目に入るように散らつかせ、
「私を信じて。」
と優しい声で言い聞かせた。茜はうなずき、勇気をふりしぼって校門を乗り越え、校庭へ歩みを進めていった。そして弁当を配っているおばさんから弁当を受け取ると、茜は一目散に校門に向かってかけよってきた。未央は校門のかげでその様子を見、周辺を見渡していた。

すると、突如弁当の置いてあった机のバックの校舎の裏から銃を持った女が現れその銃口を茜に向けた。未央は校門に姿を現わし、胸元の銃をその女に向けすかさず発砲した。弾は女の銃にあたり、銃は女の手元からすっとんだ。それをすかさず私服の警察官が拾い上げた。すると今度はその女はズボンのポケットからナイフを取り出し、茜に走って近づいてきた。未央は銃口を女に向けていたが狙いが定まらない。

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