小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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茜が校門にたどりつくと未央は茜と一緒に車に向かって走った。ナイフを持って狂ったように走る女を別の私服警察官が捕えているのを、車に乗りこんだ未央はしっかりと見届け、茜を連れて署へと向かった。山川が小学校の校長先生と取り合い、数名の私服警察官を派遣し、彼らに教員のふりをさせてくれていたのだ。未央が設置した監視カメラは私服警察官が回収した。
「お姉ちゃんって射撃の天才だね。」
茜の言葉に未央はすっかり喜んでいた。
「おとめちゃんは歌の天才よ。」


「お、来たな。」
山川は刑事課の窓から未央の乗用車がこちらに向かってくるのを笑顔で眺めていた。

未央が茜を連れて刑事課に入っていくと
「お疲れさん。あの女は捕まったよ。」
と山川は未央の肩に手を置いて話しかけた。未央はうなずき、茜を刑事課にあるソファーに座らせ、山川の近くに行き話を始めた。
「相手は銃を持っていました。犯人はあの女一人とは思えませんが。」
「あそこで弁当を売ってる犯人はあの女一人だ。蓮磨教に敵対していた冥信学会の一味で、そのメンバーは二十四名いたんだが、メールでも伝えたけどそれぞれを詳しく調べ上げたらあの弁当屋でパートをしているのは唯一あの信者だけだった。教祖を始め二十三名の拘束に向けて警察が今動いているよ。」
「小学校が青空弁当をその弁当屋から購入するってなんで分かったんですか?」
「おとめちゃんの通っている小学校に、息子も通っているんだよ。それに、僕はあの予言を信じていたからね。」
「おとめちゃん、危機一髪だったのね・・・。」
未央は下を向いて首を振った。
「しばらくおとめちゃんはその二十三人の捕獲までここでかくまってあげないとな。ここからは予言じゃないよ。でも、すぐに捕まるってことだろうな。」
山川は茜の安心している様子を見ながらそう言った。
「そうだといいですね。」
未央は手袋をはめて茜が手にしているお弁当を手にし、自分のデスクの引き出しから透あらたのプラスチック製の袋を取り出し、それにしまった。


―一週間後
警察によるその女の身元や事情聴取などの捜査により、二十三名の冥信学会の信者が捕まった。教祖は、すでに殺害された幹部の息子であった。蓮磨教は今はすでに解散しており、どこにも存在しない。山川は未央から連絡があった後の捜索により、殺人の罪にまったく関連していない人間の殺人を許されざるものとする冥信学会の信者は、舞台やTV局、ラジオ局では犯行に及ばないだろうと推測し、小学校での犯行を睨んだのであった。また、一つの宗教に猛烈につき従う信者が、予言を恐れて殺人をしようとしない、ということはないと確信していた。
未央が設置した小型監視カメラには、銃を持っていた犯人が弁当に毒を盛る姿が映っており、茜が手にしたお弁当からは毒が検出された。


―週末の休日
新聞のTV欄をしっかりとチェックしていた未央はその夜、とある音楽番組にTVチャンネルを合わせ、茜が舞台で歌う姿を見ていた。赤い煌びやかな着物を着て赤い髪飾りをし、とてもにこやかに楽しそうに歌を歌い、その後番組の司会の質問にはきはきとした調子で答えていた。
「おとめちゃん、犯人に銃を向けられた時はどんな気持ちだった?」
「全身に鳥肌が立って心臓がばくばく言い始めました。でも、お姉ちゃんが守ってくれると信じてたから怖くなかった。」
「お姉ちゃんとはあの予言の未央という女刑事のことですね。」
「そうです、とてもたくましいのにとても優しいんです。」
そう言ってTV画面に向かって手を振った。
TVに映る茜のその姿を見た未央は一人で照れ笑いを浮かべていた。そして

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