小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「ふむ。では、緒方くんと秋山くんも製薬会社での捜査にあたってくれ。緒方くんと秋山くんは、特にリストラの線の捜査に集中してくれ。この製薬会社は社員が1000人を超えている大手だから、上手く手分けして捜査にあたるように。他にも数名の捜査員を動員する。科学捜査の結果は?」

「死体に、犯人のものと思われる指紋はいっさい見当たりません。恐らく計画的犯行と思われます。死亡推定時刻は20日日曜の18時30分。死体の変容を見たところ、池に投棄されたのはおそらく同日19時40?50分。」

「18時から20時の間に不審な行動を取っている、もしくは誰かと密通していた人物を、社員の中から見つけ出すことに特に気を配るように。以上で報告会を終わる。捜査を続けてくれ。」

こうして会議は終わった。


未央と秋山はデスクで、リストラにあったあるいは候補にあげられている製薬会社の従業員に関する資料データを一つ一つ隅から隅まで眺めていた。

「まるで検品作業ね。」
秋山があくびをしながらデスクの上の紙を眉間にしわをよせて眺めている未央に言った。

「刑事って地味な仕事と危険な仕事の両極端に分かれていることが分かってきましたよ。」
未央はデスクから顔をあげて秋山の方を見た。まだまだ見なければならない資料が秋山のデスクの左のところに置かれている。それは未央も同じだった。不思議な連帯感が生まれた。

「しゃべらない。大事なことを見落とされちゃ困るんだよ。」

三島が横やりを2人にいれてきた。

「は?い・・・。」

2人はお互いに渋い顔を見合ってから黙って仕事を続けた。

しばらくして、未央は気になることを発見した。

「ねぇ、見て。」
「うん?」

未央は後ろのデスクの前で自分に背を向けている秋山の背中をつつき、秋山は作業を中断して振り向いた。

「この、真山 久の家族構成のことなんだけど、この人の娘・・・。」
「養子?」
「みたいね。」
真山 久は年齢39歳の製薬会社の社員であり、奥さんと一人娘がいたが、その一人娘は真山の実の娘ではなく、養子であった。真山は優秀な社員であり、社内で表彰されたことが幾たびもあるほどであったが、ここのところ業績が低迷し、リストラ候補に陥るほどとなってしまったのであった。

「養子がいるからって、この人が犯人だっていうことはないでしょ?奥さんが不妊症だったというわけじゃない?」
「一会社のサラリーマンが人の子供を自分の子供にするなんてちょっと珍しいと思って。それに、急に業績が伸び悩んでいるのも変だと思わない?」
「まぁ、確かに、養子に後を継いでもらいたいと考えているわけでもないし、能力のある人間が急にリストラ候補になるほど実績を得られないのも変ね。」

秋山は未央が手にしている用紙を取り上げ、まじまじと見つめた。そして、その紙にピンを止めて自分のデスクに右側に置いた。

「なんでも気になることは徹底的に調べ上げることが、真実にたどり着くための道よ。この人の家族には何かあるかもしれないわね。」

秋山はそう言って自分の仕事を再開した。未央も大人しく仕事を再開した。

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