小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「こんなことができるんだから、おそらく野良犬どもと手を組んでいたんじゃないかね。」
「野良犬?」
「あぁ、この地区のヤクザってこと。」
さっきまで話をしていた警察官が未央に言った。
「たぶん、ここは始めは病院なんかじゃなかった。ここでいう`一般的’な店だったんだろう。それがいつのまにかこんなへんてこりんな病院になっちまったってわけだよ。」
するとさっきまで黙って調査をしていた少し若めの警察官が話に加わってきた。
「世の中手に負えないくらい物騒になってきてるから、休んでらんないっすよ。」
「私も病院を見させてもらっていいでしょうか?」
警察官は互いに顔を見合せて、未央の方を見てそろってうなずいた。
「この病院は九階にフロントがあって十~十一階に患者用の部屋、十二階に手術室がある。私から調査にあたっている捜査官に無線で伝えておくよ。」
始めに未央に話しかけた警察官が未央にそう言った。
(もし彼らの言うことが正解なら医療ミスではなさそうね・・・。)

未央は階段を上って十一階に行った。マンションの一部屋につながっているような黒の扉を開けると薄暗い短い廊下が現れ、両壁に三つずつ、突き当たりに一つ扉があった。未央は手前の左の扉を開けて中に入ってみた。そこは窓についたカーテンが完全に閉ざされ廊下よりも更に暗くなっていた。ベッドが一つだけ置いてあった。未央は中に入りカーテンを空けた。窓はくもりガラスだった。未央が振り返って中を見ると部屋中ひっかいた跡や血痕で一杯だった。この中で患者が暴れ回ったのだろう。心臓を委縮させられるのだ、無理もない、と未央は思った。デジカメで部屋の各所の写真を撮り、状況をメモし、未央は部屋の外に出た。そして、廊下の突き当たりの部屋の扉を開けた。そこは診察室だった。そこにも警察官がいた。未央は黙って調査を続けていたが内心安堵していた。フロントにいた警察官の言うとおり、資料は奇麗さっぱりなくなってしまっていた。さっきの部屋とは違い、普通の少しこじんまりとした診察室だった。
「一応言っておくが手術室は血まみれといっても過言じゃない。委縮した心臓が大量に見つかったそうだ。」
調査していた警察官の一人が未央に声をかけた。未央はメモを取りながらこう言い返した。
「犯人がわざわざ死体解剖するってことは、もしかしてここの患者は実験に使われたんじゃないですか?」
警察官はうなずいた。
「いかれた連中だ。」
そうつぶやいて調査を続けた。

未央はそこでも写真を撮ってから十階の病院を出て十二階に向かった。
その階にはさっきの警察官が言ったとおり、手術室があった。扉の先の空間の先に手術室と書かれた電光板が上に掲げられていた。未央は恐る恐るその扉を開いて中に入って行った。中は真っ暗やみであり、未央は携えていた懐中電灯の電源をオンにした。懐中電灯の明かりの先に見えるのはやはり血痕。手術台や壁が血だらけだ。心臓をひきずったような跡もあった。未央はその部屋の扉とその先の扉を全開にして中を明るくし、部屋全体の写真を撮り、更には懐中電灯を当てながら部屋の部分部分を写真に収め、メモを取った。
「こんなに血痕を残して捕まりたいのかしら・・・。」
未央は思わずつぶやいた。
未央は十一階の調査も行ったが、十一階の様子は診察室がないだけで、10階とほとんど同じであった。
調査を終えた未央はマスクを外して車に乗り、コンビニで買った昼ごはんを車の中で食べている間に写真屋に現像してもらった写真を手に署へ向かった。


署へ戻った未央を山川が待っていた。
「どうだ、調達してきたものを見せてみなさい。」
未央はうなずいて写真を山川に手渡し、報告をした。ほとんどの写真に赤黒い血痕が映っていた。
「これだけ血痕があれば簡単に犯人は見つかると思いますよ。」

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