小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「そうだな。お化け屋敷みたいだったろう。」
「そんな生易しいものではないですよ。」
未央は山川の意外な発言に少し困惑した。
そんな未央を差し置いて山川は自分のデスクに戻ってパソコンに向かった。
「ん?山川さん、パソコンに向かって何してるんですか?」
「こっちもちょっと忙しいんだよ。」
未央は山川のデスクに近づいた。
「ネット犯罪ですか?」
「そうだよ。今ウイルスの蔓延が深刻らしい。生物に感染するウイルスといいコンピューターウイルスといい・・まったくね。」
「やることってそれでしたか。」
山川はため息をついた。すると電話が鳴った。
「あぁまたか。とりあえず君はその写真を持って科学捜査課に取り合ってくれ。」
「分かりました。」

未央は二重に現像しておいた写真の一組だけ署の科学捜査課に手渡し、後で報告書を提出することを告げて刑事課に戻った。
「山川さん、私は報告書を作成するのでコンピューターの件は後でお願いします。」
「あぁ、そうしてくれ。」
山川は忙しそうに動き回りながら未央に言った。未央は自分のパソコンに向かって資料作成を始めた。


科学捜査課からの報告を待っている間、未央は山川の手伝いを始めた。とある昼、山川は未央を近くのうどん屋へ昼ごはんに誘った。事件のことで話があるということだった。
「今回の事件のことなんだが・・・。」
「hertですか?」
「そうそれ。コンピューターウイルスとそのウイルス、もしかしたら何か関係しているかもしれないと思わないか?」
「へ?なんでそれを署で言わないんです?」
未央ははしをにぎっている手を止めた。
「署じゃ適当なことは言えないからな。」
山川はもぐもぐしながらそう言った。
「そういうことですか。見習いの私なら話しても問題ないと。」
「君は口が堅そうだからな。」
山川はにっこり笑った。
「それより、どうしてなんです?関係しているとはどういうことなんですか?」
山川は少し溜めてはしをどんぶりの上に置き、腕組みをして机にもたれかかってから話し出した。
「この事件でウイルスを打たれた被害者は一人しかいない。おかしいと思わないか?どうして実験台にされた人間が一人で済んでいると思う?しかもその被害者の身元は全く不明なんだよ。」
「・・・つまりそれは、犯人がその被害者の身元を知っていたということでしょうか?」
「おそらくそうだろう。そうでなければ被害者の身元はすぐに分かるはずだよ。被害者自身が自分の身元を隠ぺいしたんだ。」
「被害者は死にたかったんでしょうか・・・。」
山川はその言葉を聞いてはっと何かを思いついた。
「どうしたんですか?」
「いや、いい。もうちょっとはっきりしてきたら君にも詳しく話すよ。」

山川は慌てる未央をさえぎって昼食代を彼女の分も支払い、未央を連れて店を出、署へと向かった。

二人が署に戻ると、その直後に科学捜査課の男一人が刑事課に訪れて来た。
「ちょっとうちの課に来てください。」
二人はその男についていった。

科学捜査課の小部屋でその男は二人に実験結果のファイルを開いてそれを見せながら説明を始めた。

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