小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「コンピューター。」
山川はうんうん、とうなずいた。
そしてパソコンの画面を未央に見せた。
「自殺のサイト・・・。」
「そう。そういうサイトに絞って調べてみたんだが、このサイト、ウイルス感染の罠が仕組まれていた。」
「・・・山川さんよく感染逃れられましたね。」
「まぁ詳しいやつがいてね。」
「それで、どうしてこのサイトを私に?」
「このサイトは書き込みができるようになっていて、その書き込みの履歴が閲覧できるようになっている。まぁどのサイトも閲覧くらいできるけど。この履歴を見てみて。」
その書き込みのやり取りが途中で終わっていた。しかもクライアントの返答なしに終わっていた。書き込みは
「―クライアント:俺はもうこの家族とは縁を切った。頭がおかしくなりそうだ、お前の好きなようにしてくれ
―サーバー:本社に来てください」
であった。
「この人ウイルス打たれた被害者!?」
未央は叫ぶように言った。
「うん、でもウイルス感染を平気でするやつがわざわざどうしてこの人間を自分のところまで呼び寄せたんだと思う?」
「その人間に来てもらわないと困ることがあった。」
「におうぞにおうぞ。」
山川は不敵な笑みを浮かべた。
「これ、hertと関係してる・・・。」
未央がそう言うと山川はにっこり笑ってうなずいた。
「ま、それとは別で・・・、この論文の西川というやつについて調べてくれ。」
山川も論文のコピーを手元に置いていた。
「理学研究所に行けということですか?」
「うん、西川ってやつの知り合いを片っ端から調査だな。」
「あの・・・。」
「なんだ?」
「時間をいただいてもいいですか?」
「あぁもちろんだ。時間は相当かかるだろう。」
未央がわざわざそう聞くのには深いわけがあった。未央は少し混乱していた。

未央が外出の準備をしているとメガネをかけ白衣をきた女が山川を訪ねてきた。二人は奥の部屋で何か話をしていた。そして間もなくしてその女と山川が部屋から出て来た。その女は山川におじぎをし、去ろうとしたところ未央の姿を見つけ話しかけた。
「今年刑事課でお世話になっている、未央さん?」
「はい、そうです。」
「山川さんには今伝えたことなんですけど、hert事件の例の被害者の死体解剖の結果、血液から中毒になるほどの覚せい剤が検出されました。これがその証拠の資料です。」
女は少し厚めの資料を未央に手渡し、
「それで捜査を進めてください。」
と言い残しその場を去って行った。
未央は刑事課を出ていく時にこちらを向いた女におじぎをした。

「覚せい剤で頭がおかしくなった人間を生けどりにしたってわけか。」
山川は資料を眺めている未央に話しかけた。
「閲覧履歴に`頭がおかしくなりそうだ’ってあったのはそういうことでしたか。」
「そうだな。おそらく、コンピューターウイルスを使って個人情報を盗み、覚せい剤を送りつけたんだろう。そして家族にも見放された。僕はあの周辺の検挙について調べてみるよ。」


未央は車を走らせて理学研究所に向かった。そして論文を書いたとされる西川雅彦の所属するウイルス学研究室を訪ねた。

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