小説『ボーッとしていたら、過去に戻ってしまいました。』
作者:氷菓()

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目を開けるといつもの風景(真っ白い天井)がある。
私..いつの間に寝てたんだろう...。体がふわふわと浮く感じでまるで何処か違う世界に
吹き飛ばされたような......。
「ぬぇッッ!?!?」
私は勢いよく起き上がる。
そうすると頭を軽く板らしきものが直撃した。
それはどうやら自然現象では無く人間の手によるものだ。
私が痛みのあまり叫ぼうと゛なにすんだてめぇ゛の゛なに゛まで言いかけたときそこには、
私が小学校で一番嫌いだった薊(あざみ)先生だ。
なにやら音楽の授業だったらしい。そして私は居眠りをしていた設定になっているようだ。
ついでに寝ているあいだに別の空間に飛ばされたみたいだ。
なんでこんなに冷静なのか、自分でも不思議に思うが人間はありえない状況に出会すと
逆に冷静で居られるのだと思う。少なくともその一人が私だ。
薊先生はプンプンしながら文句を言っているが私の耳には届かない。
何で?それは...左から右へと流れ........................
「さぁ歌うわよ」
と私の脳内の言葉を断ち切り薊先生がピアノを弾き始める。
弾けたのか...今まで知らなかった。
というか歌うとか言われても何歌えばいいんだよ。
ふと手元に目をやると楽譜が握られていた。
゛さようなら゛とゴシック体でタイトルが書かれていた。
よしっ!ラッキー歌えるよ!
私はすっと深呼吸をして結構なボリュームで唄を歌った。
そして無事に終了。私が満足気味な表情を浮かべていると不意に後ろから声が聞こえてきた。
「何かめっちゃ歌声でかくねぇ?」
「だよねぇー。」
「誰だろぉ?」
「彩矢じゃない?下手くそなのに歌うなよぉ、デブぅ。」
「言えてるぅぅ〜」
二人の少女が後ろでクスクスと笑っている。
こいつらは確か..私のことを虐めていたやつらだ。確か阿姫(あき)と利々子(りりこ)。
昔の私はすごく弱くて何も抵抗出来なかった。
親に相談することも、何もできなかった。
と言うか私はデブじゃない。大事だからもっかい言うデブじゃねぇよ。
ほら..見てみ...と自分の体を直視すると
忘れてた。過去に戻ったんだ。私の体型はあの時のまんまだ。
薊先生が陽気な声でこう言った。
「じゃあもう一回歌おうね〜」
と。本当にどんだけKYだよ。この人。
そして、私は歌わなかった。そうするとまたあいつらがこう言った。
「なんで歌わないのぉ〜?」
「きもぉ」
私は堪忍の緒が切れた。
「言わせとけば..愚痴愚痴言いやがって。どんだけ虫けらなんだよ?
これだから低脳は。何がきめぇだよ。てめぇらの方がよっぽどだよ。
そりゃあ私はデブだし、運動音痴。
でもお前らみたいに心は腐ってねぇ。精々自分たちの未来を楽しみにしとけよ。」
と言ってしまった。本当ならこの頃の私はそんなことは言えない。
阿姫と利々子は目をまん丸に見開き驚いていた。
そして影では悪口を言うくせに弱い利々子が細いまぶたからたくさんの涙を流した。
それにつられたのか阿姫も一緒にうぇぇぇんと泣き出した。

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