小説『ボーッとしていたら、過去に戻ってしまいました。』
作者:氷菓()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

ヤバっ...
ほら予想通りだよ。薊がこちらに動揺した眼差しで来るし...
「はぁ....〜」
私は深い溜息をついた。
なんだか色々とめんどくさくなりそうだ。

場所を移動して早十年...ではないが、
先生と私と利々子と阿姫だけが今この空き教室にいる。
だが....しかし、
もう、この先生は何時間喋っているのだろうか。
同じこと何回も言うし、゛何度も何度も同じこと言わせないで゛って
絶対10回以上言ってる。なら、初めから言うなって話だよ。
阿姫と利々子はずっと泣きっぱなしで今やっとの思いで呼吸を整えている。
「阿姫ちゃん、利々子ちゃん何があったの?」
「彩矢ちゃんがぁ、あやちゃんがぁ〜」
「阿姫に失せろとかぁ、消えろとか言って来てぇ〜・・・・ッ。
 別に何もしてないのに酷いよぉ!」
と阿姫は私を睨みながらお得意の嘘泣きで嘘を総理大臣のようにペラペラと話す。
ある意味天才と言っても構わないほどのものだと思う。
「彩矢ちゃん、本当なの?」
薊は私の表情を伺いながら優しく問いかける。それがいい子ぶってて、
私は大嫌いなのだがもう、この際全部バラしてやる。
これでも私は中学校も高校も演劇部だ。人を騙すことなんか楽勝。
「ち、違いますッ!!!阿姫ちゃんと利々子ちゃんが私のことをいじめてたんです。
 でも、私怖くって...誰かに相談したらまた、いじめられちゃうんじゃないかって...。 
 私、太っててブサイクで頭悪いからダメなんだって思ってたんです。
 でも今度こそちゃんとやめてって言わないとって思ってそれで..それで....ッッ」
「彩矢ちゃん、そうだったの....。気づいてあげられなくてごめんね。」
薊先生は凄く気付けなかったことに悔しそうで唇を噛み締めていた。
そして阿姫達の方に向き直る。
「本当にそうなの?」
「.....」
「答えなさいっ!!!!」
いつに無く、薊先生は感情的だった。
でもそれでも黙ったままの二人。
「認めたってことでいいの?」
薊先生は二人の目の位置に自分の目を合わせるように体をかがめた。
そして最初に口を開いたのは利々子の方だった。
「だって、だって....ッ!!!」
「だってじゃないでしょッ!こんなことしていいと思ってるの?彩矢ちゃんはずっと傷ついてたのよ。
 学校に来るのだってきっと嫌だった。貴女たちは、大きな罪を犯したのよ!」
びっくりするくらいの怒鳴り声だった。まさか、薊先生がこんなにも感情任せに生徒に言葉を
ぶつけるって事が今までなかったから。それを聞いた利々子はまた泣き出す。
一方阿姫は嘘泣きを止め、なんの感情も伺えない無表情で利々子や私、それと薊先生を
観察でもするかのようにじっーと見つめていた。
その視線に気づいた先生が阿姫に声をかけた。
「.....阿姫ちゃん、貴女反省してないでしょ?」
阿姫はクスリと笑うと眉を上げにやっと笑い、
「...だから何なんです?」
とおどけた様に言った。
「なんですって?まさか、悪気がないと思ってるの?」
先生は自分の中に渦巻くようにぐるぐると回る怒りと悲しみそして悔しさ、が入り混じった感情を
全て押し殺したかのようにかすれ声で阿姫に問いかけた。
「悪気が無いって言ったら嘘になりますけど...。
 私、弱いもの見るといじめたくなっちゃうんですよね。だって先生も友達もみーんな、
 私の下僕なんだから。私が一番ですもの。だから何をやってもいいんですよ。
 それに反対する人は全員パパの力でねじ伏せてやるんだからッ...」
阿姫は気味が悪い笑い方をするとギロっと私を睨んだ。
そしてにっこりと可愛らしい眼差しを向けながら彼女はこう言った。
「ねぇ...多分だけど貴女の性格が変わったのってもしかして私と同じ現象が起きたから?」

-14-
Copyright ©氷菓 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える