小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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「皆の者! よく聞け!」
 アッシュ達が壇上に着くと、助祭が信徒達に呼びかける。
「たった今! 我らの神からお告げがあった。聖断の刻が来たのだと!」
 その言葉に、二人とも息を飲む。
 聖断の刻。
 それは経典に伝わる、世界の支配者が決まる刻。
 アッシュ達が仕えている善の神、それに対抗している悪神。太古の昔、二柱の神は取り決めをしたという。
 その刻が来たらそれぞれ己の代理を立て、その勝敗で世界の支配者を決めようと。
「我らの神の代理として……近衛騎士アッシュ、神殿巫女リノ!この二人が選ばれた!」
「そんな……」
「私達が……」
 従者が歩み出て、二人の前にひざまづいた。掲げられた手には、一振りの剣と一杖の杖。
 司祭が二人に向き直り、ゆっくりと語りかける。
「突然の、そして余りにも重い使命を負わせて、本当にすまないと思っている。だが、この世界を守るために、どうか闘ってくれないか」
 善の神が敗れたら、この世界は悪神の支配する地獄になってしまう。
 アッシュは思う。
 両親を亡くした自分を育ててくれた教会。経典に伝わる神の使者に憧れ、ずっと剣の腕を磨いてきた。そして近衛騎士になれたのも、この教会のお陰だ。
 ここは自分の家。帰る場所。世界を守らなければ、ここも守れない。
 自分で大丈夫なのか。不安はある。だけど、自分に出来ることならば。
「リノ。俺は闘うよ。俺はこの世界を守りたい」
 アッシュの言葉に、リノはうなずく。
「私は対の神殿巫女だもの。アッシュがそう言うなら、私も闘うわ」
 二人の言葉に、司祭がそっと目頭を押さえる。
(どうか、どうかこの二人を守りたまえ……)
 それぞれ剣と杖を手に取る。その瞬間、銀色の光が二人を包み込んだ。
「これは……神が祝福して下さっている……!」
 銀色の光は徐々に大きくなり、礼拝堂中に広がっていく。
 光に包まれ、信徒達の不安も和らいでいった。


 突如、咆吼が響き渡る。
「な、何事じゃ!」
 駆け込んできた騎士が司祭に告げる。
「街道の向こうから見たこともない魔物が! 我々の攻撃が効いていません!」
「なんと……!」
 助祭が声を失う。外から聞こえる悲鳴は、応戦している騎士達のものだろう。
「アッシュ!」
「ああ! 司祭様、俺達が行きます!」
「うむ……すまない。悪神から産み出された魔物は、そなた達に授けた武器でしか倒せぬのだ!頼んだぞ!」
「はい!」
 怯える信徒達の間を、二人が駆け抜ける。
 近衛騎士アッシュ。神殿巫女リノ。神の使者達の戦いが、今始まる――。

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