小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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 こういう手合いは、質が悪い。
 なまじっか理性が残っているお陰で、いわゆる「頭の良い」行動を取る。
「ま、神様に仕えてんだ。頭が良くなきゃ、やってらんねーよな」
 太い腕が俺の頭上を通り過ぎる。
「しっかしまぁ……神のご加護ってのは、無かったのかねぇ、っと」
 足払いまでかけてきた。
 だが、でかい図体が災いしてか、動きが鈍い。
 軽く飛ぶだけで、ヤツの足は空を切る。
「まじめにやってください!」
 よけてばかりの俺にもどかしくなったのか、リノの声が飛ぶ。
「俺はいつでも、まじめなんだけどねぇ」
 やれやれ、とため息を一つ。
 一応、今の俺は教会の近衛騎士。
 本当ならば神様に文句なんか言っちゃいけないんだろうけど。
「でもなぁ……」
 目の前で暴れ回る導師を見れば、愚痴も出てくるってもんだ。
 ぶんぶんと腕を振り回し、俺を捕まえようとムキになっているのだろう。
 隙だらけだった。
 その隙を逃す俺じゃない。
 導師の懐に入り込む。
「ほんっと、神様ってヤツは」
 しょうがねえよな。
 その言葉と共に、導師の胸を刺し貫く。
「あんたもそう、思わないかい?」
 弱々しいうめき声をあげて、導師は地に倒れ伏す。
 俺の言葉は、多分聞こえていなかっただろう。


 悪神の分身が導師の身体から抜け出て、導師は元の姿と意識を取り戻した。
 暴れ回っていたとは思えないほどに穏やかな青年だった。
 年齢は俺とそんなに変わらないだろう。
「き、君達は……。はっ! 僕は今まで何を!」
「悪神の分身に操られて魔物になっていたんですよ」
 リノが導師を助け起こす。
「僕が……。ああ、何てことだ……。神に仕える身でありながら」
 全くだ馬鹿野郎、なんてことを勇者は言ってはならない。
 地元の人間を罵倒することなかれ。
「リノ、まさか君を傷つけたりは……」
「大丈夫ですよ。ケガもしていませんし」
 俺がちょっと目を離したすきに、導師とリノは二人の世界に入っていた。
「君がケガでもしたら、僕はみんなに合わせる顔がない」
 乗り移られてる時点でないだろうよ、と心の中で毒づく。
「アッシュがいますから。大丈夫です」
 アッシュ、という名前が出た途端、導師の顔がちょっぴり厳しくなる。
 でもそれは一瞬で、すぐに元の穏やかな顔に戻る。
「やあ、アッシュ。君も来ていたのか」
 君もって何だよ君もって。
「導師様。実は私達……」
 何かを察したのか、リノが割って入り、事の経緯を説明する。
「……何だって? 君達が神の代理に!」
「ええ……」
「そうか、大変なことになったんだね、リノ」
 俺は。
 俺は無視かよ導師様。
 これでも街の人間からは慕われているらしく、元に戻った導師の元に街人がかけよってきた。
「皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ない。僕としたことが……」


 俺は、さっきの導師を思い返す。
 あからさまにリノだけを見ていた導師。
 やれやれとため息をついて、聞こえないようにぼそりと呟く。
「嫉妬するから取り憑かれんだよ、導師サマ」

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