勇者の敵は全てが世界の敵……とは限らない。
こういうのも、ある意味では敵と言える。
「すみません」
「申し訳ない」
「本当にお恥ずかしい限りで……」
道行く人に謝りながら歩く導師の後につきながら、俺はそんなことを考えていた。
いちいち足を止めるものだから、目的地になかなか着かない。
蹴っ飛ばしてやろうと思ったのは、これで三回目だ。
「なあ、リノ」
「はい?」
「この導師サマ、どんな人なんだ?」
何とか気を紛らわせるために、リノに話しかける。
別に導師に興味はない。
ただの暇つぶしだ。
「どんな……ですか」
リノは少し考えて、ぽつりぽつりと語り出した。
導師はリノにとって兄のような存在らしい。
幼い頃からずっと、教会巫女としてリノを教え導いてきた。
時に厳しく、時に優しく。
「アッシュより二つ年上なんです」
「ふぅん……」
リノが正式な教会巫女になり、俺……もといアッシュとペアを組むようになってから、導師は街に下りたという。
「そう言えば、名前はなんていうんだ?」
「導師様の?」
「そう」
「グラオさんです。私はずっと、導師様って呼んでますけれど……」
だとしたら、グラオ導師と呼ぶべきだろうか。
ずっとグラオに聞こえないくらい小さい声で話をしていたのだが、どうやら彼はそれが気になるらしい。
街人に謝りながらも、ちらちらとこちらをうかがう仕草を見せる。
それが意味する感情、解らない俺ではない。
グラオが街に下りた理由、そしてやたらとリノを気にする理由。
気付かない方が無理だという話だ。
「ま、良いんだけどさぁ……」
面倒くさい。
それが正直な気持ちだった。
共に旅をする相手は、男ばかりではない。
必然的に男が多くなるパターンはあれども、男のみ、というのはまずない。
男女が共に、長い長い旅を、一つの目的に向かって続けていく。
時に衝突し、時に支え合い、そして絆は深まっていく。
絆が深まれば、愛も深まるって話だ。
最初は本気で悩んだ。
仕事が終われば、俺はその世界から去らなければならない。
そして世界が平和であり続ける限り、俺はその世界に行くことは出来ない。
俺が愛情を抱いても、俺に愛情を抱かれても、別れる運命なのだ。
その世界の人間でないと知ってもなお、俺と共にいたいと望んだ者もいた。
だがそれは、決して叶えられない望みなのだ。
死ぬほど思い焦がれた時期もあった。
いっそ……と思った時も、一度ならずあった。
けれども、何度も何度もそんな経験を繰り返して――今ではもう、焦がれることはなくなった。
その境地に達した今では、こうやって恋敵扱いされるのは……面倒以外のなにものでもないのだ。
恋をしなくなったわけでは、ないのだけれど。