小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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 あらかた必要なものは揃ったので、俺達は礼拝堂へ戻った。
 出迎えてくれたグラオが何となく落ち着かない表情だったが、あえて気にしないでおいた。
 リノに防護アクセサリーとして指輪を買ってやったのがいけなかったのだろうか。
 防護効果とリノの好みでそれになっただけで、俺としては特段意味はないのだが。
 礼拝堂にはグラオともうひとり、リノと同じくらいの娘がいた。
 俺達の相手をするグラオに代わり、せっせと夕食の準備をしている。
「あの娘は?」
「見習い巫女のフォリ。僕の手伝いをしてくれているんだ」
 フォリは一度こちらを見て、どうも、と頭を下げる。
 雰囲気から察するに、あまり人付き合いが得意な方ではないようだ。
 準備の時は勿論、食事中もあまり話しかけてはこなかった。
 目も合わせてこない。
 リノはフォリにとって先輩に当たるのだから、何か聞きたいこととかあると思うのだけど。
 対するリノも、フォリと目を合わせようとしなかった。
 むしろ避けているようだった。
 その様子を見て、そういうことか、と納得する。
 要するに、仲が悪いのだ。
 同じ教会巫女同士、多分ライバルなのだろう。
 フォリは「アッシュ」とはあまり面識がないが、リノとは因縁浅からぬ――そんなところか。
 適当に頭の中で相関図を描いてみる。
 「アッシュ」を取り巻く人間関係は、なかなか面白いものだった。
 導師は多分リノに惚れている。
 そのリノは……尊敬はしているけれども、と言ったところか。
 で、フォリが導師をどう思っているかに関しては、今のところは不明。
 王道ならばフォリは導師を思っていて、教会巫女のことも含めてリノをライバル視している、そんな感じだ。
 俺自身は……まあ、リノといることで導師に恋敵扱いされているらしい。
 眺めている分には楽しいが、当事者はたまったものではない。
 よって、その当事者に俺が含まれているのは行きがかり上仕方がないとはいえ、迷惑きわまりないことだった。


 お世辞にも楽しいとはいえない夕食を終え、俺達は寝室へと案内された。
 フォリの話によると、旅人のための宿としても解放しているらしい。
 もともとそう広くはない礼拝堂だ。
 ベッドの数も限られている。
「……変なことしないでくださいね」
 必然、相部屋となるわけで。
 本来の俺から見れば子供なのだが、アッシュの立場で見ればお互いを意識できる年頃なわけで。
「安心しろ。そういう目では見ないし、興味もない」
 突き放した言い方になったが、実際そうなのだ。
 リノの視線を感じたが、俺は背中を向けて布団をかぶった。
 何か言いたげではあったが、振り返ることはしなかった。

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