俺は年齢を意識することはほとんどない。
というのも、自分が一体今いくつなのか、判然としないのだ。
別に物忘れが激しいわけではない。
成長というやつが無いからだ。
どこの世界でも、子供は成長し、大人になって親になり、そして老いて死んでいく。
普遍的な……そう、条理とでもいえばいいのか。
それが生物として当たり前の姿だ。
だが俺は、それから外れてしまっている。
当然だ、とも思える。
依頼者の世界へ行くために、己の年格好をも変化させ、全くの別人となる。
俺は本来ならば居るはずのない人間だ。
それを、無理矢理その世界に合わせて自分を変え、入り込むのだ。
まずその時点で生物としてあり得ない。
そして世界を救うため、俺はどこの世界にも所属していない。
あらゆる世界に存在し、あらゆる世界に存在していない。
そんな俺には、普遍的な条理ってやつも手が出せないらしい。
やはり、勇者はそうでなければ。
――まぁ、それは俺だけではなく、こうやって世界に関わる仕事人に共通しているらしいが。
やろうと思えば、普通の人生、てやつを満喫できるんだろうが、あいにく俺はこの生き方しか出来ない。
「世界を救うのはもう飽きた。それから逃れられない自分を救うのは、もう諦めた」
一度だけ。
そう、一度だけ、この本音を言った相手がいる。
俺が死ぬほど焦がれた相手。
いっそ、と思い悩んだその時に、その人はそっと寄り添ってくれた。
今でもその温もりは忘れられない。
その人の記憶は今も、俺の中で息づいている。
あまり思い返してはいけないのだが、それでも時々、懐かしく思う。
それに比べ、と、比べてはいけないのだがリノを見やる。
リノはベッドの上で丸まって小さく寝息を立てている。
残念ながら、今のところ俺が本音を話せるような相手ではない。
彼女はまだ子供だ。
十五ならば、誰かに寄り添うより、寄り添って貰いたい年頃だ。
致し方ない部分はある。
むしろ、それは当然のことだ。
俺が支えてやらなければならない。
あれくらい小さい胸ならば楽勝――と思ったのは、口が裂けても言えない。