【第二章:勇者の流儀】
雷が落ちたような音で飛び起きたら、フォリが皿をひっくり返していた。
慌てて片付けるフォリを、眠気覚ましに手伝う。
「あの……ありがとう、ございました」
頬を染めて礼を述べる彼女に、不覚にも見とれてしまった。
なかなかどうして、結構可愛いじゃないか。
「おはようございます、アッシュ」
こちらの様子に気付いたのか、朝食の準備をしていたリノが声をかけてくる。
柔らかく微笑む、穏やかな瞳。
リノとフォリ。
うむ、甲乙付け難し。
もうちょっと成長してくれれば、相当魅力的なレディーになるだろう。
その時はお嬢ちゃんではなく、マドモアゼルとでも呼べばいいか。
……などと余計な事を考えつつも、食事を済ませて旅支度をする。
最終地点は地図を貰っているから解るが、次はどこに行けばいいのか。
地図を眺め、最短ルートを検索する。
転々と街が並んでいる。
そこを経由しながら目的地を目指すのが一番良いだろう。
「次に目指すのは……ここか」
ツスト、と書かれている。
そこから最後の地、神無き荒れ野までは五つほどの街を経由すれば行けそうだ。
今回は思ったより早く片付きそうだ。
余程のアクシデントでも無い限り、最短記録を更新出来るかもしれない。
まぁ更新したところで、何か次に繋がったり持ち越し出来たりするわけではないのだが。
純粋な自己満足。
仕事人とて、楽しみを見付けなければやってられない。
とはいえ、その世界の危機を楽しむのは我ながら不謹慎だとは思う。
「では、導師様。俺達はそろそろ行きます」
荷造り終了。
目指すは次の街、ツスト。
「気を付けて。君達に、神の護りがあらんことを……」
もっと強固に護られているはずの導師が暴れ回っていたお陰でありがたみは薄い。
が、そこは突っ込まない。
言ってはならないお約束だ。
必要なものも買ったし、ということで早々に次の街を目指すことにした。
俺の予想では、間違いなくあちこちで取り憑かれた魔物がうろついている。
早く片付きそうではあるのだが、それに時間を取られそうだ。
何せ、魔物をぶちのめして悪神の分身を祓わねば次へ進めないのだ。
「こう、一気に片付けられないのかね。拠点みたいなのを壊すとか」
「あるんでしょうか?」
「どうだろうなぁ。導師サマに聞きゃぁよかった……」
ため息混じりに辺りを見回す。
「まあ、こいつらに訊いても、教えてくれねぇだろうな」
つい、と剣の切っ先を向ける。
返事代わりの咆吼が、びりびりと空気を震わせた。