魔物が消え、辺りを覆っていた結界が消える。
次はもう来ない。
大きく息をつき、剣を収める。
「導師様!」
リノが二人へ駆け寄る。
それを俺は、どことなく醒めた気持ちで眺める。
グラオとフォリは、俺達の支援を志願したらしい。
「司祭様に無理を言って……どうしても君達が心配だったからね」
様子を見る限り、グラオはリノと一緒に行きたいから、フォリはそれに仕方なく同行した風にも見えるのだが。
二人の人柄や思惑はさておき、戦力的には頼もしい。
遠距離攻撃の有無、その差は大きい。
「しかしなぁ」
どうにも違和感を感じる。
導師とか巫女などのいわゆる「神職者」という人々は、通常刃物は持てないはずなのだ。
昔聞いたのは、直接殺生が出来るから駄目だという理由だった。
でも、身を守る術は必要だ。
だから刃物が持てない代わりに、杖やメイスといった打撃武器を使う。
……それが当たり前だと思っていたのだが。
グラオが扱うのは、弓。
勿論ちゃんとした矢――先に矢尻が無いとか吸盤だったりしない――なのだ。
それっていいのか。
戦力云々以前に、戒律的に。
「訓練は受けてきたからね。加護も受けている」
「……それならば良いのですが」
ホントかよ。
魔物に取り憑かれた事実があるために、彼の言う加護が疑わしい。
まぁ、魔物に通じただけ、一応ちゃんとした武器ではあるのだろうけど。
「さあ、ミードに急ごう。……っと、その前に。アッシュ」
「はい?」
「レフカダ様からこれを預かってきた。君に渡しそびれていたそうだ」
そういえば、宴会の時にレフカダが渡す物があるとか言っていた気がする。
話の方が重要だったし、出るときに思い出しもしなかった。
「これは?」
手渡されたのは金属製のプレートらしき物。
浅く彫られているのは、教会のシンボルマークだった。
「一体何に使っ……ん?」
手にしたプレートがどんどん透けていく。
金属だと思っていたのだが、まさか氷……いや、そんな馬鹿な事はないはずだ。
「なるほどね。アッシュ、胸当てを見てご覧」
グラオが指差す先、俺の装備している甲冑に変化があった。
先程のプレートの柄がそのまま胸当てに移っていたのだ。
「何なんです?」
「さあ……それは僕には解らない」
グラオは不自然な笑みを浮かべている。
何か重要な意味があるのは間違い無いだろう。
時が来れば解るはずだ。
「……とにかく、ミードへ行きましょう」
「ミードの教会には僕の先生がいる。色々と教えてくれるはずだ」
グラオが皆を急かす。
そういうのは俺の役目だ、導師サマ。