不満を述べたところで何になる訳でも無し。
大人しくグラオに従ってミードへと急ぐ。
魔物が襲ってくる様子もない。
至って平和、平和すぎる。
「……おかしいな」
ようこそミードへ! というのんきな看板とは裏腹に、街は静まりかえっていた。
人っ子一人、猫の子一匹、アリさえも歩いていない。
街が打ち棄てられている様子は無かった。
現に建物も綺麗だし、商店も手入れが行き届いている。
「廃墟って訳でもないな。魔物が襲ってきたのでも無いだろうし」
住人だけが消えている。
何処かへ逃げ出したのではなく、忽然と姿を消したみたいだ。
「避難するとは聞いていない……魔物の仕業なのか?」
うろたえるグラオを尻目に、俺は街を調べる。
相手次第だが、住人を丸ごと人質に取られている可能性がある。
他に考えられるのは、何らかの罠。
何にせよ迂闊には動けない。
だが、何処かに痕跡が有るはずだ。
街全体を対象にした術ならば、探せば何か残っているはずだ。
それが見つかれば――。
「あっ」
声を上げたのはリノだった。
その先には教会のシンボルマークに似た紋章。
それが道の真ん中に浮かんでいる。
「リノ、それは?」
「触るな!」
まずい、と咄嗟に声を上げたが遅かった。
脳天気なグラオがそれに手を伸ばし、触れる。
「な、何!?」
リノの声が光の波にかき消される。
「リノ! リノッッ!」
慌てて駆け寄る。
だが、眩しさに目を開けていられない。
「リノッ!」
光の波が消えた後、そこにリノとグラオの姿は無かった。
そしてその紋章も跡形もなく消えていた。
参ったな、と溜息をつく。
グラオはともかく、リノを置いて先に進む訳にはいかない。
「……ん?」
そういえば、紋章の近くに居たのはリノとグラオ。
もう一人は?
確か、そう、フォリと言ったか。
彼女は無事なのだろうか。
「あの……」
探すまでもなかった。
「導師様は?」
遠慮がちに腕に触れる温もり。
「さあね……リノと一緒に消えてしまった」
俺の言葉に心細くなったのか、フォリはぎゅっと俺の腕にすがりつく。
師事していた導師が居なくなった事、無人の街、慣れない俺と二人きり――そりゃ心細かろう、と思う。
「二人を見付けて、街も元に戻さないとな」
さりげなくフォリの腕を解こうとしたが、逆にその手を掴まれてしまった。
そのまま恋人の様に指を絡ませてくる。
「リノは導師様がいらっしゃるから……」
「……」
「アッシュと二人なら」
「先を急ぐんだ。手がかりを探すぞ」
フォリの甘い声を遮り、俺は歩き出す。
グラオと同じ、フォリの奥底に渦巻く感情。
何なんだ、この二人は。