小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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 映像は、俺が国の統治を断ったところで終了した。
「いっつも格好良さ三割くらい増してるよな」
 クロ吉のありがたい感想がこれ。
「増してるんじゃない。実際格好いいんだ」
「よく言うぜ」
 伸びとあくびをセットでひとつ。
 そして俺は溜息をひとつ。
 憎まれ口ばかりだが、それでも家に帰ってきたという実感が湧くから楽しいものだ。
 旅の途中は気が張るし、本当に打ち解けて話せる相手が居ないのだ。
「――a ves」
 短く呪文を唱えると、映像を映した光が手のひらに収まるくらいのプレートに変わる。
 表面には、最後に倒したドラゴンの姿が浮かんでいる。
 光の珠は俺の記憶の一部だ。
 持ち続けていては、次の依頼が来たときに支障を来す
 だから、こうやってプレートにして保存する。
 そのプレートは、棚にぎっしりと詰まっている。
 思い出に浸るとか、復習するとか、色々使い道はあるのだろう。
 だが、俺はほとんど見返すことはない。
 自信がある訳でもクールな訳でもない。
 次の依頼の役に立たないのだ。
 世界が変われば、通用する力も違う。
 今回倒したドラゴンと、次の依頼先のドラゴンは、全くの別物なのだ。
 動きも弱点も共通項は無い。
 あったとしても、それを突くのは容易ではない。
 オマケに、とどめを刺した不思議な力はもう無い。
 よって、何もかも最初からだ。
 輪を掛けて虚しくなる。


 解いた旅装を片付け、普段着に着替える。
 今のところ、クロ吉の面倒を除いては、これといってやることはない。
 久々の休暇だ。
 まずはゆっくり寝て、それから少し豪勢な食事をしよう。
 土産もあることだ。
 世話をしてくれたお隣さんも招くとしよう。
 久々のベッドにもぐりこむ。
「んぁ? もう寝んの?」
「寝る。メシ時に起こしてくれ」
「オイラの腹時計でいいの?」
「いいよ」
 クロ吉がまだ何か言っていたらしいが、睡魔に阻まれてよく聞こえなかった。

-3-
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