夢に見るのは、一番最初の冒険。
今でこそ余裕タップリで臨めるのだが、当時の俺は生まれたての雛より頼りなかった。
薬草を煎じずぞのまま食べようとした。
煎じて煮出して飲むなんて、想像すらしなかった。
地図を貰ったはいいが、逆さまに眺めていた。
アイテムを貰ったはいいが、貴重すぎて最後まで使えなかった。
一番最初に手に入れた武器を、使いもしないのに最後まで持っていた。
最後の敵と戦う手前で、回復アイテムが底をついた。
……ああ、夢を見ているはずなのに、段々と気が滅入ってきた。
当時、クロ吉に散々馬鹿にされたんだっけ。
今もどことなく俺を軽く見ているのは、きっとこの事があったからだろう。
俺も随分と成長しているはずなのだが。
でも、今の俺があるのは、この時一緒に戦った仲間が居たからだと思う。
この冒険が無ければ、今の俺は存在していない。
特定の何かに思い入れを持たない主義だが、これだけは違う。
あの時の仲間は、元気にしてるだろうか。
連絡を取りたいのは山々だが、俺から相手への連絡手段はない。
山ほど便りは届くのに、俺からは一切返事が出せない。
職業上の制約、という奴だ。
……多分、一番最初の勇者は人付き合いが苦手だったのだろう。
それが慣習となり、いつしか制約になったのだと、俺は勝手に思っている。
何でも屋、勇者。
実は色々と制約があるなんて、誰も知らないだろう。
……ああ、夢を見ているはずなのに、段々と憂鬱になってきた。
寝ている間くらい楽しい夢を見せてくれればいいのに、と自分に文句を言う。
耳元で、誰かがわめいている様な声が聞こえる。
文句を言われた俺が怒っているのかもしれない、とぼんやりと思った。
「起きろー。起ーきーろー。起ーきーやーがーれー」
わめいているのはもう一人の俺なんかではなく、クロ吉だった。
「何だよぅ。メシか?」
「そうだよ、メシ。腹減った。……じゃなくって、いや、それもあるんだけどさ」
「何だよ」
ベッドから身体を起こす。
クロ吉がわめいている理由はすぐに解った。
ドアの外、風が吹いている。
穏やかな風。
しかし、どことなく緊張を帯びた空気。
「……やれやれ」
帰ってきたばかりだというのに。
髪を整え、最低限の身繕いをする。
「入りな。鍵はかかってない」
俺の声が聞こえたのだろう。
一陣の風と共に、客人が姿を表した。
それはすなわち、俺の休暇が終わったことを意味していた。