世界の状況を話し終えたリノは、息を詰めて俺を見ている。
俺の反応を伺っているのだろう。
俺も黙ってリノを見る。
無言の、お世辞にもロマンチックとは言えない見つめあいが続く。
「あの……」
先にギブアップしたのはリノだった。
「何?」
「何って……。引き受けて頂けるんですか?」
一応俺にも拒否する権利はある。
だが、拒否をすることはまず無い。
依頼者の世界は退っ引きならない状況に立たされている。
だからこそ、わざわざ俺を訪ねてくるのだ。
それを拒否することは、依頼者を見殺しにするのと同じだ。
「勿論、引き受けるよ」
俺の返事に、リノは安堵の笑顔をみせる。
この瞬間がたまらなく嬉しい。
「ありがとうございます」
「いや、お礼はまだ早いよ。仕事が終わってからだ」
仕事、と聞いてリノがあっと声を上げる。
「何?」
「私、司祭様からどう契約をすればいいのか聞いてないので……その、どうすればいいのか解らないんです。報酬のこととか何も……」
「別に、気にしないで良いよ」
司祭様とやらは余程慌てていたらしい。
肝心要の契約の話をしないで向かわせるとは。
世界を救うのが「仕事」である以上、契約を結ばなければならない。
ちゃんと契約をしなければ、そもそも相手の世界に行くことすら出来ない。
何度も繰り返してはいるが、毎度毎度気が張る作業だ。
意識を集中させ、小さな光の粒を出現させる。
驚くリノに構わず、俺は質問を始める。
「君の世界を救うために、俺は何をすればいい?」
「あ……悪の神の代理と闘い、勝利してください」
光の粒がほのかに赤みを帯びる。
「司祭さんから俺に渡すようにって、何か貰ってない?」
「えっと、これを……」
リノが差し出したのは銀色の鍵。
何も預かっていなかったらどうしようと思ったが、ひとまずは安心だ。
「そのまま持ってて」
「解りました。……!」
光の粒が、リノの持つ鍵にまとわりつく。
そしてそのまま、光は鍵の中に吸い込まれていった。
「これは?」
「まだ俺に渡さないで。それ貰っちゃうと契約成立になっちゃうから。さっき報酬がどうとか言ってたでしょ?」
「はい」
「そこもほら、ちゃんと説明しないと。ね」
年若い少女にはシビアな話だろうが、契約とは得てしてそう言うものなのだ。
俺は言ってしまえば、依頼者の世界に雇われる訳だ。
雇われるからには、それなりの、はっきり言えば報酬が必要なのだ。
リノに理解出来るかどうかは多少不安が残る。
が、使いで来たってことは、リノなら大丈夫だと向こうが判断しているのだ。
俺と契約する資格がある。
シビアで細かい話だが、我慢して貰わねばならない。