小説『職業:勇者』
作者:bard(Minstrelsy)

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 世界の状況を話し終えたリノは、息を詰めて俺を見ている。
 俺の反応を伺っているのだろう。
 俺も黙ってリノを見る。
 無言の、お世辞にもロマンチックとは言えない見つめあいが続く。
「あの……」
 先にギブアップしたのはリノだった。
「何?」
「何って……。引き受けて頂けるんですか?」
 一応俺にも拒否する権利はある。
 だが、拒否をすることはまず無い。
 依頼者の世界は退っ引きならない状況に立たされている。
 だからこそ、わざわざ俺を訪ねてくるのだ。
 それを拒否することは、依頼者を見殺しにするのと同じだ。
「勿論、引き受けるよ」
 俺の返事に、リノは安堵の笑顔をみせる。
 この瞬間がたまらなく嬉しい。
「ありがとうございます」
「いや、お礼はまだ早いよ。仕事が終わってからだ」
 仕事、と聞いてリノがあっと声を上げる。
「何?」
「私、司祭様からどう契約をすればいいのか聞いてないので……その、どうすればいいのか解らないんです。報酬のこととか何も……」
「別に、気にしないで良いよ」
 司祭様とやらは余程慌てていたらしい。
 肝心要の契約の話をしないで向かわせるとは。
 世界を救うのが「仕事」である以上、契約を結ばなければならない。
 ちゃんと契約をしなければ、そもそも相手の世界に行くことすら出来ない。
 何度も繰り返してはいるが、毎度毎度気が張る作業だ。


 意識を集中させ、小さな光の粒を出現させる。
 驚くリノに構わず、俺は質問を始める。
「君の世界を救うために、俺は何をすればいい?」
「あ……悪の神の代理と闘い、勝利してください」
 光の粒がほのかに赤みを帯びる。
「司祭さんから俺に渡すようにって、何か貰ってない?」
「えっと、これを……」
 リノが差し出したのは銀色の鍵。
 何も預かっていなかったらどうしようと思ったが、ひとまずは安心だ。
「そのまま持ってて」
「解りました。……!」
 光の粒が、リノの持つ鍵にまとわりつく。
 そしてそのまま、光は鍵の中に吸い込まれていった。
「これは?」
「まだ俺に渡さないで。それ貰っちゃうと契約成立になっちゃうから。さっき報酬がどうとか言ってたでしょ?」
「はい」
「そこもほら、ちゃんと説明しないと。ね」
 年若い少女にはシビアな話だろうが、契約とは得てしてそう言うものなのだ。
 俺は言ってしまえば、依頼者の世界に雇われる訳だ。
 雇われるからには、それなりの、はっきり言えば報酬が必要なのだ。
 リノに理解出来るかどうかは多少不安が残る。
 が、使いで来たってことは、リノなら大丈夫だと向こうが判断しているのだ。
 俺と契約する資格がある。
 シビアで細かい話だが、我慢して貰わねばならない。

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