小説『さよなら、最愛の人』
作者:ツバメ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>




由梨と僕は10ほど年の差のある夫婦だ。由梨がとても童顔でシャイだから、僕らは時々親子に間違えられることがある。

僕が大学で講師をしている時に、学生であった彼女と知り合い、強く惹かれあって結婚をした。

由梨のご両親は結婚に反対だった。なぜなら、僕はご両親と信頼関係を築こうとしなかったからだ。
彼女はその頃はもう完全に僕のものであり、僕と彼女の間に誰も関わらせたくなかった。

僕らは2人の意志だけで、婚姻届を役所に提出した。

だが、ここに至るまで時間は相当かかった。
由梨はもともと義理堅い性格だったし、敬虔なカトリック信者で、僕の恋愛観にずいぶんと批判的だった。僕は由梨を娼婦にして部屋に閉じ込めてもいいと思っていたほどだったから、僕と由梨とが衝突することは何度もあった。由梨はそれをとても嫌がっているようだった。でも、僕はまったく引かなかった。結局彼女は僕に言われるがまま結婚することになった。僕が愛に飢えていることを不憫に思って由梨は僕と結婚したのかもしれない。





彼女が発症したのは突然のことだった。キッチンで皿洗いをしている時に急に倒れた。

救急車を呼んで、それなりに評判の良い病院に運んでもらい一命を取り留めた。


しかし検査を何度も繰り返したが、
問題の病名が分からなかった。

由梨が学生だった時に2度ほど原因不明の呼吸困難で死にそうになったということを聞いたことがあり、そのことが頭から離れなくなった。



僕は、由梨が倒れた日、不思議な夢を見た。

僕は寝室のベッドの上で、由梨が眠っているのを見つめていた。彼女は安らかに眠っており、すーすーと寝息を立てていた。とても温かくて柔らかい時間だった。腕で彼女の肩を抱いたら、腕になにか毛のようなものがあたる感覚がした。
ふとそちらの方をみると、白い羽が彼女の背中から生えていた。

すると突然それが、みるみるうちに抜け落ちて、ぼろぼろになった。


由梨は突然ベッドから起き上がり、出窓の上にひざをついた。そして窓を開けようとするのである。

「由梨、なにをしようとしている!?」

ここはマンションの13階。下は車が行き交う大道路であり、万が一落ちたら即死である。

僕は由梨を両腕で雁字搦めにして止めようとしたが、由梨は

「離して!!」

と叫んでおり、由梨の体から発せられたなにか得体の知れないエネルギーのようなもので、僕はベッドの方へ勢いよく跳ね飛ばされた。

気づいたら、彼女がマンションの下方へとまっさかさまに落ちていくのが見えた。





-2-
Copyright ©ツバメ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える