小説『さよなら、最愛の人』
作者:ツバメ()

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しばらく僕は両親とともに由梨のいない生活を送った。ちなみに、僕はマンションなんかに暮らしていない。あの夢が正夢であるなんて絶対にありえない。


僕は、平日に休みをとって由梨のお見舞いに行くことにした。由梨に会いたくて仕方がなくなり、休日まで我慢できそうもなかった。
今僕は、時々なら自分で勝手に休みをとることができる立場にいる。休日でさえ休みをとれないサラリーマンにとっては羨ましいことだろう。


電車の手すりに手をかけて、僕は外を眺めながら、由梨の病気について考えていた。

精神の病だろうか?

病は気からともいうし。

由梨には思う存分就職活動をさせてやった。それで全部ボツで、本人は納得がいったと言っていた。もちろん、ひょっとしたら就職してしまうかもしれないと思って、彼女を自分のものにしようと自分勝手な行動に走ったこともあったが、それでも彼女は抵抗していた。僕はそれを受け入れた。


僕はふと、夢の中で見た由梨の背中のぼろぼろの羽を思い出した。

すぐさまとてつもなく十字架と一緒に嫌なことが頭に浮かんできたが、
僕はそんなこと、すぐに否定した。

由梨の病気は必ず治る、治らないわけがない、

自分に言い聞かせていた。



手ぶらじゃ素っ気ないから、病院の近くの花屋で少し奮発して高値の花束を買っていった。


受付で看護婦に由梨の入院している部屋の番号を聞き、
番号の書かれたカードをもらって、その部屋へ向かった。病状はそれほど悪くないようであり、少しくらいなら長居できるようであった。

僕が由梨のいる部屋に入り、カードの番号のベッドを探すと、そのベッドの所のカーテンが閉まっていた。ちょうど窓際にあるベッドだった。僕がそちらに足を運び、近寄るとカーテンが開いた。

由梨が起き上がって、少しも病人とは思えないような元気そうな顔で僕を見上げていた。

「いらっしゃい、ずっと待っていたんだよ。」

由梨はこちらを見ながら笑っていた。窓の外から光に照らされて、それがきらきらしているように見えた。

「僕もずっと会いたかったよ。買ってきたお花、飾っていい?」

「うん、いいよ、すごいいい香りがする?。」

「きれいでしょ?」

「うん。」

僕は一緒に持ってきた花瓶を手に取った。

「ちょっと待っててね。」

僕は看護婦に案内してもらい、湯沸かし室のようなところで水を汲み、由梨のいるところへ戻った。


「調子はどう?」

「うん、大丈夫なんだけど、医者によると、妙に血圧が低くて外で出歩くのは危険みたいなんだ。だから、こうして横になっていたんだけど・・・。」

「原因は分からないまま?」

「うん。」

「すぐに治るさ。」

僕は、由梨が怯えているのが分かり、ベッドの上の彼女の近くに座って彼女の頭を撫でた。

僕は由梨の様態が悪化してしまうように思えて、夢の話をすることは絶対にできないと思った。




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