小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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あっという間のツーリングが終わって、工場にまで帰ると弘樹さんが待っていてヒロユキさんとキャブレターがどうのこうのという話を始めてしまったので、僕はそれ以上話にもついていけず、里美さんの夕ご飯の買い出しに付き合いました

二人して4人分の食材の詰まったスーパー袋をもった帰り道
突然里美さんが言いました

「ヒカルちゃん、なんかいいことあった?」

ニコニコ顔でじっと顔を見つめられました

「え?い、いや?なんでですか?」
「鼻歌歌ってたわよ?」

ああ、何て勘のいい人

「いいなさいよ?。私に秘密はダメよ?」

両手がふさがっているので肩でつついてくる
どうやったらこんなに無邪気な「大人」になれるんだろう

「な、何もないですよ」
「嘘ばっかり。私にはわかるんだもんね。ヒカルちゃん恋してるね?」

面一本。

「顔の艶とか、目の輝きが全然昨日とまで違うんだもん、そりゃ分かるわよ」

里美さんはいたずらっ子のような顔で僕の顔を覗き込んできました
まさか、お宅の弘幸君です、とも言うわけにもいかず

「うん、剣道の教室でちょっといいなって思う人がいて…」

と嘘をつきました

「そうか?青春だねぇ?」

朗らかに笑うと僕の腕に手をまわして頭をコテっと肩にもたげました

「ねえ、こうしてると本当の母娘に見えるかしらね」

やっぱり里美さんは裕子ちゃんと僕を重ねて見てるんだなと思いました

「うん、母娘に見えると思いますよー」
「そうかそうか」

とひとしきり満足したようで、そのままの格好で家まで帰りました
工場ではツナギに着替えたヒロユキさんが弘樹さんの手伝いをしていました

4人分の夕食を里見さんと一緒に準備して、一足早く食事を済ませて僕は剣道場へ向かいました
まだまだ基礎練習ばかりでしたが、僕はその打ち込み一つ一つが、僕の武器になっているような気がして全然退屈しませんでした
2時間の練習が終わって汗だくの身体をシャワーで流そうと思った時に、昨日までなかった変化が訪れました

同性の裸を見るのも、見られるのも急に恥ずかしくなってしまったのです
どうしようもなくて、汗だくのまま急いで着替え済ますと

「ありがとうございましたっ!」

と道場に一礼してダッシュで家まで帰りました
それまでお風呂は道場のシャワーで済ませていたので、初めて弘樹さんの家のお風呂を借りました

人の家のお風呂って、居心地悪くてゆっくりできないよね
それでも汗臭いのをゴシゴシこすって手短に体を洗って、スッキリして風呂から出るとバスタオルを持ったヒロユキさんが立っていました

僕は呆然と固まってしまいました

「お前、まだ毛も生えてないのな」

第二次性徴がまだ始まってないことに僕は結構コンプレックスを抱いていたのです

ニヤニヤしながらしげしげと僕の身体を観察しています

「もうっやめてよ!ハズいじゃん!」

ヒロユキさんからバスタオルをひったくると急いで前を隠しました

「それで、今日はまたどうしてうちの風呂使う気になったわけよ?」
「いや…なんか他の人に身体見られるのも見るのも恥ずかしくなっちゃった。。。」
「…そうか。まあいつでもお風呂使っていいから」
「うん」

そのまま着替えを手に持ってそそくさと部屋に戻ると、扇風機を「強い」にして体を冷ましました
裸のままシーツにくるまると冷たくてすごく気持ちがよかったです
何か今日一日の事が夢のように思えて、バイクの事やキスの事が頭の中をぐるぐるとまわっていました

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