小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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しばらくしてお風呂から上がったヒロユキさんが、がちゃっとドアを開けて入ってきました

「エアコンつけろよ」
「あるの?」
「こんなぼろ屋でも工場やってっから防音とエアコンは完璧だぞ?」
「お??つけてつけて!」

ヒロユキさんは2重サッシ(当時はまだ珍しかった)を閉めると、エアコンのリモコンをいじっていました
しばらくするとひんやりした風が部屋をどんどん冷やしていきました

「ウキャ最高!!これこれ!!」
「あ、あれ?ちょっとヒカル首のあたり見せて。発疹ができてんぞ?」
「あ?僕、紫外線アレルギーで、太陽浴びるとすぐでるの」
「早く言えよ、それなら昼間連れて行かなかったのに」
「だから言わなかったんだもん。行きたかったし」
「アホか。夜でもいつでも行ってやるよ。とりあえず薬持ってきてるか?」
「うん、そこのカバンに入ってるから取って?」
「自分で取れよ」
「だって僕、今裸んぼだもん!」

心底呆れた顔をしたヒロユキさんはカバンごと投げてよこしました
薬の軟膏をとりだすと首や肩に丹念に塗りこみました

「それで大体、なんでお前は裸で布団に潜りこんでんだよ?」
「えぇ!?ヒロユキ知らないの?裸でこの冷たいシーツに包まれる快感を!」
「まじか!俺もやる!!」

おもむろに服を脱ぎだしてブリーフまで摺り下げようとするヒロユキに、あわてて

「ヒロユキ、電気電気!!恥ずかしいってば!」

と電気を消すように頼みました
もうヒロユキと呼び捨てにするのに抵抗はありませんでした
明かりを小さな豆球一つにすると、ぼんやりとしたオレンジの世界になりました
バフっとヒロユキはスッポンポンになると布団に倒れこんできました

「お???お???これかぁ???きもちいい??」
「中、入ってきてみて!もっと気持ちいいよ」

ゴソゴソゴソゴソと布団の中に侵入してくると

「お???これはこれでまた違った快感!!くせになるぞ!」
「へへへ」
「へへへ」

ヒロユキは枕元にある煙草セット(お盆、灰皿、ライター、水差し、コップ)からセブンスターを取り出し吸い始めました
僕も勝手に一本抜き取り吸いました
ヒロユキは「こんなんできるか?」といってタバコの煙をわっかにして吐き出しました

「うお!すごい。もっとやって!!」
「じゃあ鯉の滝登り」

そういうと口から出た煙を全部鼻から吸い込んでしまいました。僕は大うけです。真似してみましたが全くうまくできません

「修業が足らんのだよ、君」

とヒロユキは偉そうです
煙草2本を灰にした後、ふっと無言の時間が流れました
耐えきれなくなった僕は

「そこのお水飲んでもいいかな?」

と了解を得て、半分体を起こすと水差しの水をコップに注ぎのみました

ゴクリ

飲み干す音が部屋に響き渡った気がしました
頭に心臓が付いたように心拍と同時に顔が脈打ってるように感じました
どうにかまた布団にもぐりこみました

でも今度はヒロユキに背中を向けて。

エアコンのうなる音だけが響きました

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