小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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8月の第4週、僕は香川県の丸亀市にいました
結果から言うと僕は編入試験で国語以外は満点でした

もちろん特待生枠が与えられました
学校は普通科と全寮制に分かれており、普通科は高校から、全寮制のほうは中高一貫教育で
本当にできたての学校で中一のクラスは僕を含めて5名しかいなかったのです
中二、三年は0、高1が10名2年が8名、3年は0
多くは金持ちのボンボンで、外交官の息子や、代議士の息子もいました
それでも僕はあのTVのセットのような嘘だらけの家にいるよりはましだと思いました

勉強の方は暗記や数式で答えられない国語はものすごく苦手でした
全く興味のなかった英語もガイジンの先生のヒアリングや日常会話と日本人の先生の文法構成などの授業で
面白く授業を受けることがでました

苦痛だったのは寮生活の方です
朝晩の点呼に加え、食事や入浴、消灯の時間が決められていたし
何よりも2人部屋だったのがたまらなく嫌でした
プライベートなんてないに等しかったのです

最初の頃は挨拶を交わしたり、皆と一緒に食堂で食事をとっていたのですが
段々と皆との距離は離れていきました
そして誰からも近寄っては来なくなりました
そのことはすごく嬉しい事でした
煩わしい意味のない会話や、相手を気遣う必要もなくなったからです

いよいよ我慢できなくなった僕は2学期の中間テストでトップをとったとき
教師にかけあいました
一人部屋にしてほしい事、普通科の剣道の部活に参加したい事、の2点です
両方とも会議をして決めるということでした

3日後、あっさりと両方とも認められました
元々中一は5名で2人部屋と3人部屋に分かれていたので
一人部屋と二人部屋二つに分けられることで好都合だったんだろうと思います
普通科の高校生に交じって部活に入ることは結構議論があったらしいけど
トライアルということで認められました

週末を利用して部屋を引っ越しました
6畳の洋室、作り付けの洋服ダンス、スティールパイプのベッド
そして事務用の机、本棚
学校以外の時間を一人で過ごせることは快適この上ありませんでした

剣道のほうも一応の基礎練習は高知の町道場で習っていましたし
なによりひと夏かけて木刀の素振りをほぼ毎日こなしていたのが幸いして
体格の全く違う高校生とでも一応の練習にはついていけたのです
体格や体力差を、技や、スピードで補えるのは本当に助かりました

ヒロユキにも恭子さんにも連絡は取りませんでした
会えないのなら、時間を共有できないのなら
余計に苦しくなるだけだし、それならいっそ連絡を絶とうとおもったからです

朝6時に起きて点呼に並び、洗面、朝食
学校にいき、放課後は部活、夕方6時から夕食、入浴
自習をして夜10時に点呼、就寝

ただひたすらそれの繰り返しになりました
就寝後にも寮監がライトをもって各室を回って
抜け出してないかの点検が入ります
月に一度は不定期で授業中に、寮監が各部屋の持ち物点検をします

喫煙習慣の抜けてなかった僕は小説で学んだように
トイレの水洗タンクのふたの裏にビニール袋に2重に包み込んだ煙草を張り付けてありました
またこれも小説から学んだことだったけど部屋のドアに毎朝出かけるときには、髪の毛を挟んでおきました
だれかが入ると髪の毛が落ちてわかるという仕組みです
エロ本や漫画などは持ち込み禁止だったし、ウォークマンなどもダメでした
もともと興味がなかったし、絶対そういうものは部屋には置いておきませんでした
ただ、プライベートな空間を無遠慮に家探しされるのが我慢ならなかっただけでした

そうして僕は中学2年になったのです

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