小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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「みなさん、深夜までお疲れ様です。どうせ停学とかにするつもりもなくて、このまま一気に退学させるつもりでしょう?」

「職員会議とかもひらくつもり、ないんですよね?」

その場にいた僕以外の全員が凍りつきました
「タバコ一本で一気に退学まで追い込むには色々と大変でしょうし、提案があるんですがききます?」

連ねた顔には学年主任で担任の顔もありました
「君の言うとおり、いきなり退学というのは色々難しくてね。我々としては停学を機に特待生枠もはずして
自主的に辞めてもらおうという心づもりだったんだが…一応君の提案をきくから言ってみなさい」

担任教師の横には事務長まできていました。用意周到、準備万端。大人って怖いね。

咳払いをして僕は始めました
「えーまずなんでここに僕が立っているかってことなんですが、なんでです?」

寮監が消え入りそうな声で言いました
「君がタバコを吸っていたのを見たからだよ」

「見た?今、見たっておっしゃいましたね寮監さん」
「そうだよ」
「じゃ、その証拠は?すっていたタバコの銘柄は?なんで煙草に火をつけました?ライター?マッチ?」
「いやそれは見てない…」
「じゃあ吸殻がありますか?」

僕はスウェットのポケットを裏返して見せました
あのとき僕は煙草をもみ消すふりをしてベランダの排水口におとしこんでありました

「いや…ないね」

煙草のパッケージはWCのタンク裏だ。いつも吸う分しか自室には持ち込みませんでした。
見つかっても僕のものとは特定できないはずですし、ライターは別に持ち込み禁止と明記されてるわけではありませんでした

「じゃ、寮監さん、さっき僕が吸ってたのは単語を暗記しようとして辞書を破って丸めたものかもしれないですよね?」
「辞書を食べるっていうのは聞いたことあるけど…吸うっていうのは…」
「そんなの個人のやり方ですよ。どうです?その可能性もありますよね?」
「…そうだね。」

寮監さんはもっと消え入りそうな声になりました
僕は視線を5人のエセ裁判官に戻して、言い放ちました

「と、いうふうに僕が喫煙したという事はとんでもなく頼りない証言ひとつなわけですよ」

事務長が苦虫をかみつぶしたような顔をしていました
担任教師は楽しんでいるかのように見ていました

「僕を排除したい意図は薄々わかっていました。身に覚えのないエロ雑誌がベッドの上にこれ見よがしに置いてあったこともありますしね。即クラスメートにあげましたが。あれも現場を押さえるタイミングを外してしまったようで」

寮監の顔が真っ赤になった
かわいそうな大人。

「で、なにが君からの要求なんだっ!」

業を煮やした事務長が声を荒げました。短気な性格らしい
冷笑を投げて、じらすようにため息をつきました
図書室中の本を読み漁って学んだ交渉術をなめてもらっちゃあこまる

「まずは、僕の円満自主退学、そして次の学校へ入るための推薦状。これ私立から公立へ転校するときは必要ですから。あとはそうだなぁ寮の荷物の引っ越し代負担。そんくらいでいいですよ」
「それだけか?」

事務長の顔が高1の少年にいいように言われて怒りで膨れ上がっていました

「ああ、あと親には僕がエスカレーターで高等部に進んだ時に入学金といって振り込ませた50万円をかえしてやってください、それで僕の要求は終わりです。ダメなようなら、この件も含めて卒業した先輩達や辞めた子と連絡を取って、新聞社なりメディアに売り込みます。目下売出し中の新進気鋭の学校のスキャンダル、50万くらいにはなるでしょう」

再び明るい笑顔でそう言ってやりました
単純で軽率なバカなあんたらが踏んだのは虎の尾だよ

「じゃ、よろしくご検討ください。僕は自室で荷造りしますんで」

言うだけ言うと後は野となれ山となれ
勝手に部屋を出て自室に向かいました

止める声は一切聞こえませんでした

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