小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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人生で一番退屈なのは入院生活だ

と誰かが書いていましたが全くその通りでした
次の日、マサがお見舞いに来てくれました

僕が拉致された日からチームはまた水面下に潜って、メンバーそれぞれがペアを組んで僕の情報収集に当たっていたのだそうです

網に中々かからなくて焦っていたところT病院に搬送された少年の新聞記事を読んで
ようやく僕を探し当てたとのことでした
「やったのはSですか?」
ずばり確信に切り込んできました

警察がどこかで耳をそばだてているかも、という思いで僕は無言でじっとマサを見つめて首を横に振りました
しばらくうつむいていたマサは意を決したように顔を上げると
「わかりました。ヒカルさん、チーム動かす時はいつでも連絡ください」
そうして席を立つと
「お身体、大事に。」
といい、深くお辞儀をして病室を出ていきました

今のチームリーダーはマサで、私は引退した頭の女
私の都合でチームを動かすわけにはいかない

私闘だ。

そう決意していました

退屈な一か月はあっという間に立ち、手のギプスは取れました
リハビリと同時に、車椅子も乗れるようになりました
裂けたお尻を傷めないための下剤と週に一回は訪れる刑事には閉口気味でしたが
毎回同じ刑事さんが来るもので段々と仲良くなりました
なんでか毎回花を持ってきてくれるようになっていました
でも、絶対に核心部分の相手に関しては何度尋ねられても口は割りませんでした

ある日刑事さんが車椅子を押してくれて、中庭で勧められるがままに一緒に煙草を吸いました
「シャブのほうはどうなの?抜けた?」
いつのまにか親しげな口調で話しかけてくるようになっていました
「そうですね。シャブより病院の薬のほうがきついですよ」
そういうと笑っていました

季節はもう初秋を迎えようとしていました
気の早い紅葉がもう色付き始めていました

二本目の煙草に火をつけると刑事さんは言いました
「ガキって、ガキの理屈で動くんだよね」
見透かされているようで心臓が跳ね上がり煙草を取り落しそうになりました

「まあ、ガキ同士の戦争ごっこはいつだってあるし、そう問題でもないんだけど、今回はシャブ絡みだろ?
おまけにヒカルちゃんは拉致、監禁、暴行の被害者だ」

いつのまにか刑事さんは僕をヒカルちゃんと呼ぶようになっていました
「チームSなんだろう?」
警察の情報網はいつだって僕たちの情報網の3倍は遅いんだ

「いえ、前にも言ったように全員仮面をかぶっていましたし、不確定な憶測で警察に情報提供はできません」
僕はまた心に扉をかけた

「そうかあ…」
「あの…寒くなってきたんでそろそろ…」
「あ、そうだねごめんごめん」
そう言って煙草を靴先で踏み消すと、車椅子を押して病室まで送ってくれてベッドに寝かしてくれてました

「ま、なんか困ったことあったらここに連絡して」
と一枚の肩書の入ってない、名前と電話番号だけの名刺を渡してくれました

丸めて捨てようかとも思いましたが
ふと、思い改めてテレカの入ったパスケースにしわにならないよう収めました

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