小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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マサに恋人がいるのは知っていましたが、まさか結婚まで考えているとは思いませんでした

「あの人?」
「うん、そうです。本当はもうちょっと前にしようっていう話だったんですけど…」
照れているのかハンドルを握るマサはこっちをちらりとも見ませんでした

「ああ、じゃあヒロユキの7年回忌過ぎるの待ってくれたとか?」
「……はい。一応俺なりのケジメで7周忌までは待とうって決めてたんです」
「ありがとうね。ありがとうマサ」
「いや、別に感謝されるほどのもんじゃ……ないです」
言い終わってそっぽを向いて煙草を取り出しシガーソケットで火をつけるマサが愛おしかったです

結婚するという事も嬉しかったし、ヒロユキの7周忌が終わるまで待っていてくれた、その心意気が僕にはとても嬉しかったのです
「そしたら盛大にお祝いせないかんね」
僕の声も弾みました

「一応教会で式だけ挙げて、後はチームの連中とか集めて2次会するつもりです」
「そうかそうかー」
「ヒカルさんも来てくれますよね?」
「んー…どうしようかな…」
「えぇ!?」
「うそうそ、いくよ。絶対行くよ」
「よかったあ。もう冗談止めてくださいよ」
「で、いつ頃する予定?」
「まだ決めてないですけどなるだけ早いうちにしようと思ってます」
「うんうん、そういうのって善は急げ?なんか違うか。とにかく早い方がいいよ」
「はい。」
結婚式って何を着ていけばいいんだろう、とか思案を巡らしながらの高知への道のりは、あっというまに過ぎました

マサはそれから一か月後に無事入籍、結婚しました
綺麗な花嫁さんとたくさんの人の祝福を受けてとても幸せそうでした
2次会で仲間思いの元Gのメンバーがとことんマサを飲み潰させて、グデングデンになったマサを酒の肴に思い出話に花を咲かせました
花嫁さんを囲んで事情聴衆したり、冷やかしたり大変な盛り上がりでした

少しのぼせた僕は店を出てフロアの外にむき出しの裸階段の踊り場で、夜風を受けながら煙草を吸っていました
そこに花嫁さんがタタタっと逃げるようにやってきました

「ん?どうしたの?主役がいないと皆寂しがるよ?」
「いや、ヒカルさんとお話がしたくて」
だいぶお酒も入ってるのか顔も赤いし、少し呂律もまわっていませんでした

「うん?何?」
「マサくんから、いっぱいヒカルさんの事聞いてて…それで…」
「それで?」
「あの、失礼かもしれませんがヒカルさんて、今マサくんとしか遊んだりしてませんよね?」
「うん。まあ、そうかもしれない。」
急にアルコールとパーティーの熱気にのぼせた体温が下がり始めるのが分かりました

「私なんかが取り上げちゃっていいのかなって…」
バカな女。このバカなところが気に入ったのかなマサは。

「どういう意味?」
「い、いや、ヒカルさんもマサくんのこと好きなんじゃないかってそれで心配になって」
憎たらしいくらい可愛らしいしぐさで目を潤ませて僕を見上げる

これにやられたんだろうなーと思いました。
心は氷点下に下がりました
なるだけ声が冷たくならないように気を付けながら言いました
「マサとは遊び友達。それ以上でもないし、それ以下でもないよ。君と結婚しようが、僕たちの関係は変わらない。取り上げるも何も恋愛感情とかは持ってないから」
一息にそれだけ言うと煙草を靴で踏み消しました

「花嫁が行方不明だと宴会も盛り上がらないよ。早く帰った方がいいね」
次の煙草に火をつけながら暗にこの場にいてくれるな、と突き放しました

「わかりました。私の勘違いだったみたいです。突っ走ってしまってすみません」
「いいよ。さ、はやく戻って。」
「…はい。」
そういうと彼女はまたタタタっと店に戻りました

2本目の煙草を吸いながら、またあの喧騒の中に戻る気にもなれなくなってしまい、そのまま階段を下りて、通りに出るとタクシーを拾って帰りました

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