小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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手を引っ張られて歩いている間、照火は自分の過去、生前のことを思い出していた。

照火はもともと両親と妹の琴音の四人家族だった。

しかし、照火十歳の夏休み。照火は家族で旅行に行った。その帰り、楽しい思い出をたくさん持って家に帰る途中、それは起きてしまった。対向車線を走っていた車が、中央分離帯を越えてこちらの斜線に飛び込んできた。そして事故はおきた。

照火は約三週間、生と死の境を彷徨った。そう思えば、照火はすでに一度地獄に来たことがあったのかもしれない。


目覚めたときにはすべてを失っていた。自分を愛してくれた両親。自分を慕ってくれていた琴音。二度と戻ってはこない。誰が悪いのか。相手の車の運転手?それともこんな残酷な運命を作り出した神様?

しかし誰をうらもうと何を恨もうと、一度失われたものは戻ってこない。むしろ1人だけ生き残った自分を恨んだ。なぜ自分だけ・・・。

人間は不幸が襲い掛かったとき、他人を恨むことで自分の不幸を紛らわそうとする。しかし、照火他人を恨まなかった。だから照火の心の傷はなかなか癒えなかった。


照火はその事故で足を怪我していた。さいわい医療技術のおかげで切断は免れたが、そのリハビリは相当きついものだった。そんなつらいリハビリの中、心も折れそうになっていたそんなとき、照火は一人の少年と出会う。

それが雷人だった。

雷人も同じように、事故で家族を失い、足に怪我を負っていた。そんな二人はとても息が合った。雷人は事故のせいで、喉をやられ声がでなくなっていたが、二人は一緒にリハビリを送っていく中で、どんどん心が通じ合うようになっていった。まさに『以心伝心』だった。


小学校は違ったが、中学は二人とも私立を受験して同じ学校へ行った。これから二人は楽しい学校生活を送っていく『はず』だった。しかし、それはかなわず、二人には地獄が待ち受けていた。

照火たちのクラスのボス的存在だった、不知火飛鳥は体の不自由な二人を標的(ターゲット)として暴力(いじめ)をはじめた。暴力は次第に多勢になり、エスカレートしていった。そして三年たった高校。一貫校だったため、照火たちはまた飛鳥と一緒になった。相も変わらず飛鳥は暴力を続けた。殴る、蹴る、まるで何かの『恨み』をぶつけるように・・・。

そして雷人は自殺した。自分は雷人の自殺をとめることができなかった。雷人だけは死なせたくなかった。失いたくなかった。唯一の『友達』だったから。死ぬなら一緒に死にたかった・・・。

―――ねぇねぇ照火?「照火??着いたよ?顔色悪いけどどうしたの?死にそうな顔だよ?まぁもう死んでるけどね(笑)」

唯の声で照火はハッとなった。いつの間にか体育館に着いていたようだ。唯はずっうつむいて考え込んでいた照火を怪訝そうに見ている。

「ほら早くいくよ。間に合わなくなっちゃうよ」

「間に合わないって、なにに?」

照火はなんとか表情を戻して訊いた。

「ん?二次試験の内容発表☆」

どうやら二次試験の内容はその場で発表らしい。

(2次試験ってどんなのだろう・・・)

そう思いながら照火は体育館に入っていった。

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