小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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不思議な感覚だった。よくわからない。だが言い表すとしたら・・・、自分の中の『何か』が音楽を奏でている。さまざまな音色が響きあい調和しているような感じ。美しいシンフォニーのような。言い表すといったが、本当に音楽が聞こえている。たしかに聞こえている。自分のなにが音楽を奏でているかがわかった。これは『こころ』だ。自分の心。記憶。この音楽は自分を表してるんだ・・・。美しい音色の中で時折激しい音が混ざる。多分それが人間の心の中に潜む悪。自分のことで言えば『恨み』なのだろう。普段表面に出さないもの、意識していないものが心の中に潜んでいるようだった。あのころ自分では恨み(そういうもの)はもたないと決めたはずなのに。


いきなり『音楽』が途切れてハッとなった。


「唯、今のは?」
最初に唯の声が聞こえてきたので今の音楽は、唯がしたことと思い聞いた。


「今のは心の覚醒(ハートエコー)。人に潜んでいる『力』を覚醒させるための『力』。死神は誰でも持ってる力なんだけどね。『力』は心の力。まず自分の心の中をのぞく必要があるんだよ。それが、みんな聞こえたと思うけど、シンフォニー(音楽)。あれがあなたたちの心。そして『記憶』」

「私も聞こえた。なんだか静かな感じ。そして、なんだかよくわからないけど懐かしい感じがして、癒されるような・・・」
雫も聞こえているようだった。その聞こえた音楽が雫の心、記憶そのものなのだろう。

「さてと、自分の『心』がわかったところで『力』についてイメージしてみよっか。さっきの音楽を思い出して、それを強くイメージしてそしたら何かわかるはず」

イメージ。・・・強くイメージしてみる。・・・、体がだんだん熱くなってきた。その感覚はしだいに具現され始めた。照火の眼前に小さな『炎』が現れた。

「うわっ!」
照火は驚き一歩身を引いた。少し額をやけどした。

「大丈夫?」

唯と雫が心配そうに近寄ってきた。

額がずきずきと痛む。炎・・・。これが自分の『力』なのだろうか。

「まだ、初めてだからうまくコントロールできてないね。照火の『力』はどうやら『発火現象(パイロキネシス)』のようだね」

そういって、唯は照火の額に手をかぶせた。冷たい感じがした。

「えっ。ちょ、何してるの?」

照火は少し顔を赤くして聞いた。

「ん?これが私の『力』のひとつ。聖癒(リカバリー)。でもごめんね。『力』が弱いから少し時間がかかるかも」

「いや、大丈夫。ありがとう」

唯の『力』の一部を見ていた雫は少し考えて、
「・・・、それ私にもできそう」

「えっ?」

「なんだか今、あなたの『力』を見ていたら、その感じがさっき、私が感じた音楽に似ていたっていうか・・・。なんだかよくわからないんだけど・・・、できそう」

もしかしたら、雫の『力』が聖癒かもしれないと思い、
「・・・じゃあ、やってみる?手を当てて念じるだけでいいから」

雫はこくりとうなずくと、照火の元へと近寄った。
「テル・・・大丈夫?やってみるから」
そういって傷のところに手をかぶせてきた。すると、ほんの数秒。たった数秒で痛みがなくなった。雫が手を離す。傷は完全ではないが大体治っていた。

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