小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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とにかく逃げた。人間の本能というか、考えての行動ではなかった。

とにかく走った。逃げる途中に一度、後ろを振り返った。さっきまで自分たちのいた場所、まさにそこが真っ黒に焼け焦げている。もし逃げてなかったら・・・。そう考えただけで冷や汗が吹き出てくる。

そういえば雫たちがいない。遠くのほうに走って逃げる人影が見える。どうやら照火たちとは逆に逃げたらしい。自分の周りには・・・。照火は走りながらあたりを見渡した。こっちに逃げてきていたのは自分と飛鳥だけだった。

最悪だ。さっきから飛鳥は自分に何も手を出していないとはいえ、正直怖い。

飛鳥がチラッとあの腕時計のような機械を見た。そして走るスピードを徐々に緩めた。照火も一応それにあわせる。

飛鳥はその機械を操作しながら、
「どうやらさっきの化け物は追ってはきてないようだな」

そういわれて照火も、その機械を見る。確かに追って来る様子もなくさっきの場所にとどまっている。

(・・・・・・?)

照火は画面を見ながらひとつ気になった。画面下の残りチームの数字がもう二桁になっている。まだ始まって十分とたっていない。ついさっきまでは四桁もあったのに。

照火と飛鳥はそのまま歩きながら、ひとつの教室に隠れることにした。照火と飛鳥は教室の隅のほうの床に座った。やはり怖い。照火にとっては飛鳥の存在自体が恐怖なのだから仕方ない。飛鳥にはどうせ自分のこと、雷人のこともわからないだろう。理解してもらえないだろう。最初飛鳥に暴力を受けたのは、照火が学校に入って、友達作りに必死になっていたころだ。私立のため、小学校からの友達が雷人しかいない。友達になってもらおうと飛鳥のところに行ってはなしかけたらいきなり殴られた。わけもなく。

「ちょっと俺の話を聞いてくれるか?」

ふいに飛鳥が照火に話しかけた。照火は驚いた。飛鳥が自分に話しかけてきたうえに、自分の話を聞いてほしいといった。声には・・・、元気がない。照火は反射的に頷いてしまった。照火がうなずくと、飛鳥は「ありがとう」と言った。

照火は初めて『ありがとう』という言葉をかけてもらったような気がした。

「まず最初に言いたい。お前と雷人に・・・。本当に・・・本当にすまないことをした」

そういって飛鳥は、頭を地につけた。照火はあせった。そんな言葉が出てくると思わなかった。しかし、そんな言葉だけで許せるような『こと』ではない。どうしていいのか分からない。

「本当に俺はこんな言葉だけじゃ償いのできないことをしてしまった、すまない・・・」

飛鳥は顔を上げようとはしない。照火にはそんな飛鳥がうそを言ってるようには見えなかった。本音のような気がした。いや本音なのだろう。やはり照火はどうしていいのか分からない。ただ一言、言った。

「・・・顔を上げて」

飛鳥は一時間を置いて、頭を地からはなした。ただ顔を上げない。飛鳥は一人でしゃべりだした。

「俺は家族いないんだ」

自分の過去を。

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