-3
「俺が小さいころ、俺の親父は詐欺にあった。しかも親父の一番仲のよかったやつに。『親友』に詐欺られた」
飛鳥が自分の奥深くに封印していた過去を、飛鳥は自分から話し始めた。正直飛鳥はなぜこんな話を始めたかはじめは自分でも理解できなかった。
「そして俺の家庭はなにもかもが狂ってきた。俺の両親はついに耐えられなくなって、俺ともども心中しようとした。俺はどっか遊びに行くのだと思い、一緒に乗っていった。だけど、俺の親父は車を運転してわざと湖に突っ込んだ。俺はなんだかよく分からなかった、気づいたら湖の岸にいた。親はいなかった。自分だけ助かっていたんだ。なぜ助かったかはよく分からないんだけどな」
壮絶な過去。照火(じぶん)は家族は事故で亡くした。それは『偶然』。いいたくないが偶然。飛鳥の両親は自殺。自ら命を絶った。飛鳥の父親は悲しかったに違いない。自分の『親友』に騙された。自分の親友に裏切られた。飛鳥の過去と自分の過去。正直言って飛鳥の過去のほうが最悪だ。なぜこんなことをいったのだろう。苦しいはずだ。
「それからだ・・・」
飛鳥がまた話し始めた。
「仲のいいやつとか、仲良くなろうとか言ってくるやつをみると無性にイライラしてきて、それが自分でも抑え切れなくなって・・・」
飛鳥が沈黙する。なんだか気まずい。
「雷人が自殺したとき・・・、自分の中に・・・なんだかよくわからない感情が生まれた。奪われる悲しみを知っている俺が・・・お前から友達を奪ってしまった。でも・・・どうしていいかわからないで・・・」
飛鳥はなぜ自分がこんなことを言っているのかがわかった。自分のことを知ってもらいたかったんだ。それで許してもらおうなどとは思っていない。ただ純粋に自分のことを知ってほしかった。
飛鳥はどうしたらいいのかわからなくなった。
照火にはそんな飛鳥がどうしていいかわからなくなって泣きじゃくる子供のように見えた。不思議と照火の中にあった飛鳥に対する恨みとか恐怖が薄れてきたような気がした。なんだか・・・、なんだろう・・・。自分の親友を奪った相手なのになんでだろう。
「なぁ・・・」
飛鳥が言った。
「何を言ってるのか、自分でもふざけたことを言ってることはわかってる・・・」
「?」
「照火・・・俺を友達にしてくれないか?」
「・・・、はい?」
照火はあまりにもありえない言葉が飛鳥の口から出てきたので、自分が聞き間違えたのかと思った。
「だから、友達になってくれないか?小学校のころから誰1人としていないんだ」
自分に似てる・・・と照火は思った。自分は1人だけ友達がいた。でもそれ以上は増えなかった。たくさんの友達がほしかった。自分を傷つけ、友達を奪った飛鳥を友達にすることはできるのか。もし、自分と同じ立場の人がいたら多分「そんな身勝手な」という感じで絶対無理というだろう。でもさっきから飛鳥の言葉を聞いていると、とても反省しているようだ。普通あそこまでできるはずがない。なら・・・、友達になってほしいと言ってるやつを断る理由などない。それが照火の行き着いた答えだった
「・・・いいよ。飛鳥の気持ちはよく伝わったよ。雷人のことはまだ完全には許せない。でも・・・友達として一緒にいきたい。そうしたら何かが変わると思うんだ。僕は今だれも友達がいないんだ。だから・・・」
いつの間にか照火は飛鳥のことを呼び捨てでよんでいた。照火本人は気づいていない。
飛鳥が顔を上げる。
「本当か?ありがとう・・・」
飛鳥はいつになく明るくなりほっとしたような表情になった。
照火は何となく腕の機械を見た。と同時に表情を変えた。
「どうした?照火」
飛鳥が怪訝そうに顔を覗き込んでくる。照火は自分の腕の機械を指差した。飛鳥もそれはのぞきこむ。そこには自分たちのほうに近づいてくる黒い丸があった。