小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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いつの間にか近づいてきていた黒い丸。要するに、さっきのドラゴン。いつの間に来たのだろうか。あれだけ大きかったのに足音ひとつしなかった。照火と飛鳥は息をひそめる。

「どうする?これじゃにげられないぜ」

いきなり馴れ馴れしくなった(というと言い方が悪いが)飛鳥が小さな声で言った。それはさておいて本当にどうしたものだろう。ドアのすぐ前まで迫っている。もう逃げる場所はない。幸いまだドラゴンはこちらに気づいていないようだ。

「と・・・とにかく今のうちにどうするか考えよう」

飛鳥に話すのはなんだかあれだったが、照火も小さな声で言った。とはいえ、本当にどうするかは全く思いつかない。逃げる場所もないし絶体絶命だ・・・・・・、かといって闘うことはできない。いくら『力』があるとしてもまだうまく扱えないのだから。

「・・・・・・倒すしかないんじゃないのか?」

飛鳥はそう言い、ゆっくり立ち上がって、反対側の窓に近寄った。ギリギリ、ドラゴンには見えていないようだ。飛鳥はおもむろに窓を開け始める。端から1つ1つ順番に。すると涼しい風が吹いてきた。飛鳥が手を出し風を受ける。

「?」

飛鳥は何をしているのだろう。照火はそう考えはじめ、やがて思い出した。洸の言っていた飛鳥の『力』の1つに、神風というものがあったような気がする。唯も言っていたが確か風を操る『力』。しかし、一回も使ったことのないのに飛鳥は『力』をコントロールすることができるのだろうか・・・。

「・・・くっ・・・・・・はっ!」

飛鳥が手を振りおろすと同時に強い風、というか突風が吹いた。とても強い風。

「なるほどね・・・。こんな感じか・・・」

もともと、運動神経や勘がいい飛鳥は、すぐ『力』の使い方をマスターしてしまったらしい。しかし今の突風のせいで向こう側の窓ガラスが割れた。そしてドラゴンが気づいてしまった。

グガァァァァァ!!

ドラゴンは雄叫びをあげ、こっちを睨みつけた。だが壁があるのでこっちに来ることはできない。

「なっ、なにしてんだよぉ」

「す、すまない。・・・どうしよう・・・」

飛鳥は戸惑った。照火としては戸惑うだけで何もしてもらえないんじゃ、どうにもならないんだが。

照火は何かしようと考え、自分も飛鳥のように『力』を使ってみることにした。使い方はなんとなくなら分かる。ただ飛鳥みたいにうまくいく保証はない。でも倒せないとしても追っ払わなくてはならない。照火は自分の右手に『力』を集中させ、目を閉じ火を頭にイメージする。

・・・・・・すると右手が熱くなってきた、・・・・・・ような気がして目をあけた。自分の右手の少し上に直径10cmぐらいの火の玉が浮かんでいた。

(よし・・・)

「お、すげぇ・・・」

飛鳥は照火の『力』である、発火現象(パイロキネシス)を見てうらやましそうな顔をした。何せ自分の力は風。目には見えない。だが照火の力は火。目に見えることがちゃんと力を発揮している感じがするからだろう・・・。

「・・・はっ!」

照火は右手を振りかぶり、野球のボールを投げる要領で火の玉を投げた。速度こそ速くないが、火の玉は確実にドラゴンの右目に命中した。

グググ・・・

ドラゴンが小さく呻き声を上げる。

「や、やった!?」

グググ・・・グ・・・・・・・・・。グァガァァァァァァ!

「!?」

ドラゴンの呻き声は再び雄叫びへと変わった。中度半端に攻撃した所為で、逆にドラゴンの本気モードへのスイッチを入れてしまったらしい。

「お、おい。どうすんだよ。怒らせちまったようだぜ?」

飛鳥が照火の肩に手をあてて(強く)ゆする。照火は首がブランブランとなりながら、
「そ、そ、そんなこといわれ・・・たって・・・・・・あ」

「?」

照火が何かを見て顔色が変わった。飛鳥もそっちのほうを見る。ドラゴンが何かを溜めるような動作をしている。この動作には覚えがある。炎を吐くときの・・・。飛鳥も照火もとっさに壁の影に伏せる。と同時に二人の頭の上すれすれを灼熱の炎が吐き出される。

「――っ!」

飛鳥も照火もぎりぎりセーフで焼かれずにすんだ。(もっとも、飛鳥は髪がはねていたので少し髪が焼かれたが)

「ねぇ・・・どうすんだよー。このままじゃ焼け死んじゃうよ!まぁもう死んでるけど・・・。」

照火にそう言われ飛鳥は考え込んだ。自分の『力』は風。風でどうにかできないだろうか・・・。だが風じゃ殺傷能力もない。これじゃ何の役にも立たない・・・。自分も照火のように、火みたいな『力』があればよかったのに。飛鳥はそう心の中で嘆いた。

(・・・ん?風と火?)

「これはいけるかもしれない!」

いきなり飛鳥が叫んだ。

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