小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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ほぼ同時刻。照火の学校のクラスメイトは夏期課外研修の帰りのバスの中だった。バスの中は異様なまでに静かだった。不知火飛鳥(しらぬいあすか)という存在が知らず圧力をかけていたからだ。不知火飛鳥。クラスのボス的存在。本人としてはほとんど何もすることがない。ただ圧倒的な無言の圧力があった。そしてそれが解き放たれることもあった。暴力となって。



バスの運転手、大木亮太郎はいつものように運転をしていた。大木はこの道三十年のベテラン運転手。今日もいつもと変わらぬ運転風景。

「ん……? なんだ、これは」

変化は目に見えるものだった。

視界に霧が現れる。薄いものだがいきなり現れたのだ。ここは普通の街中の公道。山道などというわけではない。天気、気温、湿度、そして時間帯からしても霧があらわれることはまずありえない。しかし、この不思議な霧はあらわれた。何の前触れもなく。

次の瞬間、大木は突然、頭がクラッとするような感覚に襲われた。意識がほんの少しの間とぶ。

霧が晴れた。意識が戻る。素早く前を向く。交差点。信号は赤。今のバスの速度は――――、時速七十五キロ。止まれない。交差点の右からは大型トラック、左からは小型車。間に合わない。大木は顔を引きつらせながらも、必死にブレーキを踏む。


「――――!?」

突然の大きなブレーキ音。車体の揺れ。異変に気がついた生徒は閉めていたカーテンを開け、窓の外を見る。前方の信号は赤。ブレーキをかけているようだが間に合いそうもない。バスはいまだ大きな音を振りまきながら、走り続けている。車内の他の生徒も異変に気付き、車内の静寂は打ち破られ、一瞬にして悲鳴へと変わる。

「おい、どうしたっていうんだ!?」

いまいち状況を把握できていない飛鳥は立ち上がり叫んだ。しかし、叫んだところでパニック状態の車内からは返事が返って来ることはない。

車体は横断歩道をゆうゆうと越え、交差点に突っ込んでいく。


―――――ドグァ!!


……………



救急車のサイレンが空しく響き渡る。

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