第一章 死後の世界
一/死神とテスト
「うっ、うう……。ここは…………」
目を開けたが視界に入ってくるのはすべて黒。漆黒に包まれていた。ここはどこなのだろう。体はいつもより軽い気がした。不思議な感覚だった。
「なんだ……ろう。ここは。夢……?」
そんなことを呟いていると、すぐ後ろに気配を感じた。
「……誰?」
突然の気配に驚いて後ろを振り向くと、いたのは一人の少女。背は小さかったが、年は自分と同じぐらいだろうか。服装はセーラー服だったが、その色は真っ黒だった。髪は両サイドで留め――いわゆるツインテール。
「あっ驚かしちゃった? ごめんね。まぁそれはそうと、ようこそ『地獄』へ♪」
その少女はそう流暢に話してきた。
照火は少女の言葉にふとおかしなものが混ざっていたような気がした。
「今、地獄って言った?」
「うん? 地獄? 言ったよ。それがどうかした?」
なんでもないというように澄まし顔で言う少女。
「混乱してるみたいだね。まぁ飛び降りだったし、頭でも損傷しちゃったのかもね。記憶の混乱。まぁそのうち元に戻るよ」
「飛び降り……」
その言葉に照火の頭の中に浮かぶ光景があった。雨の日の屋上。
「――――――!」
「思い出した?」
はっきりと、鮮明に思い出されたそれはあまりいいものではなかった。自分が飛び降りたという事実を、そんな事実を信じることは出来ない。
しかし、はっきりと認識している自分がいた。
ただ、飛び降りたとして何故飛び降りたのか……その部分の記憶が曖昧だった。
「君は……?」
「えーっと、私の名前は唯。黒羽唯っていうの。地獄で死神やってます。よろしくね」
「え――死神?」
「うん、死神」
誰でもだろうが死神という言葉はあまり聞いて気持ちのいい言葉ではないと思う。照火の中では――――いや大抵の人も『死神=死を招く神』というイメージはあると思う。照火は頭の中でイメージしていた死神の姿を頭へ思い浮かべ、目の前にいる唯と重ねる。
「死神……には見えないけど、もし君が本当に死神なら、僕に死を招いたのも君だったりするの?」
思い出すことの出来ない『死の原因』を探るかのように静かに訊いた。
唯はしばらく黙って照火をみていたが、
「やっぱりみんなそういう質問をするなぁ。なんでだろ? やっぱり未練があるからかな。どうやら現世では死神は死を招く神みたいな感じに思われているみたいだけどそれは違うよ?」
思考を読まれた。
「人が死ぬのは運命なんだよ。私たち死神の役目は、死んだ人に『テスト』を受けさせるように案内することなんだよ」
とだるそうに答えた。