小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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なんなのだろう、この炎は。まったく熱くないし、第一さっきまで『力』を使うことができなくなっていたにもかかわらず発動している。

不思議だ。

自然と力がわいてくる。


この炎の壁の出現には幸希が一番驚いていた。

(くそ、なんなんだあれは・・・さっき確かに『権利制限(ライトリミット)』で『力』をとめたはずなのに!)

幸希は焦りの色を隠せない。

実際のところ権利剥奪の能力のうち、とくに権利制限は相手の『力』の大きさとの関係が強い。相手の『力』が自分の『力』より大きければ『力』を発揮することができない。・・・・・・とはいえ、幸希の『力』の大きさは、権利剥奪Lv5、反転逆転Lv3、そしてさっきからバットを作り出している夢現Lv2の合計10である。ほとんどの死人(ひと)では超えられない『力』の大きさだが照火とは決定的な差がある。

それは幸希がただの『心の覚醒(ハートエコー)』であるのに対して、照火は『二重の覚醒(デュアルエコー)』ということ。

いくら『力』の強さが幸希より低くとも、圧倒的なランクの差といえるものがある。

「ちっ」

幸希は一歩後ろに飛びのいた。

(・・・・・・・・・)

こんな状況ではバットのような近接的に有効な武器ではまったく意味がない。

(・・・・・・遠距離で使える武器といえば・・・、ハッ、そうだ銃がいい・・・)

幸希はすぐ『力』を使い始める。しかしなかなかうまく具現できない。

(うっ・・・)

頭が割れるように痛む。

『力』は精神力、体力を消費する。さっき幸希は権利剥奪を複数対象に使い、体力も精神力もつきかけていた。

(ちくしょう・・・)

何とか最後の力を絞り一丁の拳銃を具現する。そしてやっとの思いで照火に銃口を向ける。

照火はそんな幸希を見ていた。目の前に殺人のための道具が向けられている。しかし、なぜだろう。負ける気がしない。炎はさらに強くなる。

「・・・!?」

刹那、幸希の目の前の風景がグニャりと歪んだ。

照火自身は感じてないが、実際回りは相当な温度になっている。結果、蜃気楼のような現象が起きる。

そんなことを知らない幸希は照火が得体の知れない『力』を使っているかのように見えた。

(躊躇してたらだめだ・・・)

幸希は照火に向けて引き金を引いた。

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