小説『死神のシンフォニー【完結】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

-14

生き返る。そのために試験を受けていたのに、いざ言われてみると実感がわかない。

「何ボーっとしてるの?照火」

唯の言葉で、照火ははっとなった。

嬉しさもあるのだが、寂しさもある。なんでだろう。なんで、寂しいという感情が出てくるのだろう。生き返るのは自分だけではない。飛鳥も、雫も、菫も生き返るのに・・・。なぜ、寂しいのだろう。

「なんで照火はもっと嬉しそうにしないの?試験の合格なんて滅多にできないんだから。照火はいままでで、十人目の試験合格者なんだよ」

「十人目?」

試験が難しく、合格者が少ないのは聞いていたが、ここまで少ないとは・・・。なにせ、人は一年にたくさん死ぬ。その中のたった十人。

「そうだよ、十人目なんだよ。もっと嬉しがらなきゃ」

唯は照火の顔を覗き込んできた。

照火はそこでやっとわかった。寂しい感情の理由が。自分が生き返るということは、もう唯と会えないということだ。たった数時間一緒にすごしただけなのに、なぜそんな感情が・・・・・・。しかし、その理由も照火にはわかった。

唯をはじめ見たときから誰かに似ていると思っていた。誰かはずっと思い出せなかった。まあそれどころではなかったこともあるが。しかし、今思い出した。忘れていた自分は本当にありえないと思う。


妹の琴音に似ていた。歳(見た目の)とか服装は違えど、顔の面影、性格は琴音を思い出させる。

神様は言っていた。死神は死んだ人間なんだと。記憶のない、死んだ人間なのだと。

もしかしたら・・・・・・・・・。

照火はそこで思考を止めた。これ以上思考してしまうと、現世に戻れなくなる。ここに痛いと思う気持ちが、強くなってしまう。


「神様。せっかちなようだけど、早く僕と飛鳥たちを生き返らしてよ」

「もちろん」

神様は塑羅と真波のほうを向いた。

「準備完了まであと何分かかる?」

「うーん・・・。あと一分ぐらいで私はできますよ」

塑羅は無言。

真波が塑羅をじっとにらむ。

塑羅はしぶしぶと、
「あと十分ぐらい・・・。だって、天国に気づかれないように転送しなきゃいけないし・・・、三人。けっこうかかる」

「そうか、わかった」

神様は照火のほうを向いた。

「いまから君を、君が事故にあう一分前へ転送させるよ。友達も死の原因となった出来事の一分前へ転送させるから」

照火は静かにうなづいた。


しばし沈黙。


「転送の準備ができました」

真波はそういって、照火のほうへ一歩近づいた。

照火は唯のほうを見た。

唯は笑顔だった。それはいつか見た笑顔と同じだった。

「照火。新しい人生をがんばってね。私、応援してるから」

唯がそういったと同時に、照火は自分の体の感覚が消えていくような感覚(矛盾しているが)に気づいた。転送が始まっているのだろう。

転送の予備処理らしい現象は続いている。

照火の意識はだんだんと薄れてくる。

意識が消える寸前に照火は唯に言った。

「ありがとう・・・、唯に逢えて嬉しかったよ」

「うん、私も・・・」


照火の意識は急速に、闇へと落ちた。

-47-
Copyright ©迷音ユウ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える