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生き返る。そのために試験を受けていたのに、いざ言われてみると実感がわかない。
「何ボーっとしてるの?照火」
唯の言葉で、照火ははっとなった。
嬉しさもあるのだが、寂しさもある。なんでだろう。なんで、寂しいという感情が出てくるのだろう。生き返るのは自分だけではない。飛鳥も、雫も、菫も生き返るのに・・・。なぜ、寂しいのだろう。
「なんで照火はもっと嬉しそうにしないの?試験の合格なんて滅多にできないんだから。照火はいままでで、十人目の試験合格者なんだよ」
「十人目?」
試験が難しく、合格者が少ないのは聞いていたが、ここまで少ないとは・・・。なにせ、人は一年にたくさん死ぬ。その中のたった十人。
「そうだよ、十人目なんだよ。もっと嬉しがらなきゃ」
唯は照火の顔を覗き込んできた。
照火はそこでやっとわかった。寂しい感情の理由が。自分が生き返るということは、もう唯と会えないということだ。たった数時間一緒にすごしただけなのに、なぜそんな感情が・・・・・・。しかし、その理由も照火にはわかった。
唯をはじめ見たときから誰かに似ていると思っていた。誰かはずっと思い出せなかった。まあそれどころではなかったこともあるが。しかし、今思い出した。忘れていた自分は本当にありえないと思う。
妹の琴音に似ていた。歳(見た目の)とか服装は違えど、顔の面影、性格は琴音を思い出させる。
神様は言っていた。死神は死んだ人間なんだと。記憶のない、死んだ人間なのだと。
もしかしたら・・・・・・・・・。
照火はそこで思考を止めた。これ以上思考してしまうと、現世に戻れなくなる。ここに痛いと思う気持ちが、強くなってしまう。
「神様。せっかちなようだけど、早く僕と飛鳥たちを生き返らしてよ」
「もちろん」
神様は塑羅と真波のほうを向いた。
「準備完了まであと何分かかる?」
「うーん・・・。あと一分ぐらいで私はできますよ」
塑羅は無言。
真波が塑羅をじっとにらむ。
塑羅はしぶしぶと、
「あと十分ぐらい・・・。だって、天国に気づかれないように転送しなきゃいけないし・・・、三人。けっこうかかる」
「そうか、わかった」
神様は照火のほうを向いた。
「いまから君を、君が事故にあう一分前へ転送させるよ。友達も死の原因となった出来事の一分前へ転送させるから」
照火は静かにうなづいた。
しばし沈黙。
「転送の準備ができました」
真波はそういって、照火のほうへ一歩近づいた。
照火は唯のほうを見た。
唯は笑顔だった。それはいつか見た笑顔と同じだった。
「照火。新しい人生をがんばってね。私、応援してるから」
唯がそういったと同時に、照火は自分の体の感覚が消えていくような感覚(矛盾しているが)に気づいた。転送が始まっているのだろう。
転送の予備処理らしい現象は続いている。
照火の意識はだんだんと薄れてくる。
意識が消える寸前に照火は唯に言った。
「ありがとう・・・、唯に逢えて嬉しかったよ」
「うん、私も・・・」
照火の意識は急速に、闇へと落ちた。