小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

Scene10

美春「やっぱり海と言ったら、バナナ食い競争です!」
夏の海辺に吊るされているバナナ。
夏休み、海水浴に来ていた純一達は美春の提案でパン食いならぬバナナ食い競争の真っ最中だった。
無論参加しているのはごく少人数。
まず、提案者の美春。
その美春の勧めで参加する事になったアリス。
そして、面白そうだからとさくらと眞子。
この四人である。
美春「バーナナナナナナー!」
スタート直後、バナナに向かって激走する美春。
萌「すごいスピードですねー」
杉並「うむ、明らかに人間離れしているな」
美春の走りを見て感心する二人。
師走「月城も結構速いんじゃねーか?」
純一「ああ、バナナがらみの美春にあそこまで食らい付くとは……」
美春のすぐ後ろにはアリスが華奢な体に似合わぬ速さで走っていた。
萌「こちらもすごいスピードですー」
杉並「彼女も、人間離れしているなぁ」
と、アリスを見て再び感心する二人であった。

そして。

萌「皆さん、お昼が出来上がりましたー」
さくら「ボクもうお腹ペコペコだよー」
時間も昼食時、みんな萌の所に集まった。
純一「さすがは萌先輩、まさかお昼の用意を引き受けてくれるとは」
智也「ああ、さて、どんな料理かな――」
さくら「こ、これは……」
環「お鍋みたい、ですね」
みんな集まって見てみるとそこにはグツグツと良い感じで煮えている鍋があった。
音夢「この炎天下で……萌先輩、本気だったんですね」
みんなの愕然とした表情とは裏腹ににこにこ顔の萌。
萌が余程の鍋好きということは、これを見ると明らかだった。
萌「やはり、海といえば、海草鍋ですー」
師走「いや、鍋の時点で何かが違うような」
智也「眞子、お前の姉さん、凄いな……」
眞子「どう凄いのかは訊かないでおくわ……」
溜め息をつきながら言う眞子。
萌「お出汁はそこら辺にあった海草でバッチリですー」
砌「現地調達か……」
杉並「ふむ、なかなか経済的だな」
眞子「どれどれ……」
と、受け皿を萌から受け取り、出汁を入れて一口飲んでみる。
眞子「あら、結構良い出汁とれてるじゃない」
眞子の言葉に他のみんなも次々と食べてみる。
音夢「へぇ、ちゃんと貝とかも入ってるんですね」
アリス「……おいしい」
杉並「なーに、我慢大会をしていると思えば、結構良いものだな」
純一「何故真夏の海で我慢大会をするのかはともかく、結構美味いですね」
口々に真夏の鍋を絶賛する一同。
そして。
午後は、午前とは反して休憩時間となっていた
純一「うん、やっぱりこうしてのんびりするのは良いものだ、うたまる、お前もそう思うか?」
うたまる「にゃー」
さくら「ねえ、お兄ちゃん」
のんびりしている純一にさくらが呼びかけた。
純一「何だ?俺は今、この平和な一時を満喫しているんだ、そっとしておいてくれ」
さくら「えー、そんな事言ってないでさ。僕にサンオイルを塗って欲しいんだけど」
と、片手に持ったサンオイルを突き出しながら言う。
純一「そんなもん、自分で塗ればいいだろ」
さくら「だって、背中とか、届かないでしょ」
純一「……ったく、しゃーねーな」
さくらのもっともな意見に結局折れる事になったのは、純一の方だった。
さくら「もっと優しくしてよ、お兄ちゃん」
純一「あー、かったるい」
さくら「にゃははは……くすぐったいよ」
純一「こら、動くな」
音夢「兄さん……」
さくらにサンオイルを塗っている純一に音夢が声をかける。
純一「何だ?」
音夢「さくらちゃんの後に、私にもサンオイル、塗って欲しいんですけど」
と言うと、音夢は水着の紐を解きつつうつ伏せになる。
さくら「わー、音夢ちゃん大胆―」


師走「どうだ?」
師走は美春と楽しそうに話しているアリスに声をかけた。
アリス「はい、楽しいです」
今のアリスは師走と美春が最初、体育館裏で出会った頃とは大きく変わり、人と接する事にもなれ、ピロスを通してだけではなく,自分の口で話す事も多くなった。
美春「美春がいるんですから、当たり前じゃないですか」
と、胸を張って言う美春。
師走「まあ、ある意味な」
美春「先輩、それはどういう意味ですか?」
と、頬を膨らませながら言う美春。
師走「ははは、冗談だ、冗談」
ピロス「天枷さんと藍澤先輩って、とても仲がいいよね」
二人を見てくすくす笑うアリスとピロス。
見張る「先輩もそうですけど、美春は月城さんの事もだーいすきですよ!」
そう言いながらアリスに抱きつく美春。
ピロス「わっ……天枷さん、苦しいよー……」
師走「ははは……」
杉並「うむ、みんな楽しいんでいるようだな」
師走達を見て頷きながら言う杉並。
智也「ああ、来て良かったな」
杉並「ふ、ところで藤倉、少し訊きたい事があるのだが」
智也「何を?」
杉並「うむ、それはだな――ん?」
杉並は何かに気づいたように智也の後ろの方を見た。
智也「ん?どうかしたのか?」
杉並「この話はまた後だな」
そう言うと杉並は立ち上がった。
智也「おい、何処行くんだ?」
杉並「それでは藤倉、健闘を祈る。いろいろな意味でな」
そう言うと「後で詳しく聞かせろよ」と言い残し、何処かへ歩いて行ってしまった。
智也「健闘……?何言ってんだ?あいつ」
智也は疑問に思いながらもその場に仰向けになる。
その時。
ことり「藤倉君、ちょっといいかな?」
ことりの言葉に体を起こす智也。
智也「何か、用?」
ことり「はい、えっと……その」
なぜか口篭ることり。
――……言い難い事なのかな?
ことり「そうじゃなくて!」
智也「えっ」
急に大きな声を出したことりに驚く智也。
ことり「あ、ごめんなさい」
まるたに「いや、いいって、それで?」
ことり「サンオイル……塗ってもらえませんか?」
智也「え!?サンオイル?」
ことりの発言に再び驚く智也。
ことり「駄目、ですか?」
智也の言葉を別の意味で解約したのか、表情が暗くなることり。
智也「あ、そうじゃなくて、いいよ、俺で良ければ」
ことり「本当ですか!ありがとうございます」
そして、ことりにサンオイルを塗り終えた智也は再び仰向けになっていた。
そこに。
眞子「藤倉」
智也「ん?今度は眞子か」
智也は眞子の姿を確認すると体を起こし。
智也「何か用か?」
眞子「うん、サンオイル、塗って欲しいなって」
――……ほー
智也は少し間を置き。
智也「断る」
ときっぱり言う智也。
眞子「な、何でよ?」
智也「あいにく、俺はそのような趣味は持ち合わせていない」
眞子「?」
智也の言っている事の意味がいまいち理解できないらしい眞子。
智也「要するに、男の中の男であるお前にサンオイルを塗るなんて、俺には出来ない、と言う事だ」
智也は分かりやすく眞子に説明した。
眞子「……藤倉」
智也「ん?理解できたか?」
眞子「……藤倉は海、好き?」
何気ない質問だが、どこか眞子の様子がおかしい事に智也は気付いていた。
智也「ま、まあ……嫌いじゃない」
眞子「じゃあ、私が藤倉の大好きなこの海に沈めてあげる……」
と、静かに恐ろしい事を言い放った。
智也「……」
眞子「……」
智也を睨み付ける眞子のその目は確実に正面の獲物を見据えている。
そう、それはまるで虎に睨まれた鹿の子みたいな気持ちにさせるものだった
智也は直感で思った。
――このままでは殺られる!!
智也は即座に今後の自分の身の安全を最優先した智也なりに最良の答えを出した。
智也「丁重に塗らして頂きます……」
眞子「よろしい」
こうして、眞子にサンオイルを塗る事になる智也であった。


-10-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える