小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene09

白い夏、青い海。
初音島にも例年通りやってきた夏、純一達は当初の計画通り、みんなで海に来ていた。
師走「杉並の自慢の場所って言うから来てみたけど」
砌「案外寂れた場所だな」
智也「この時期の海に、俺達以外の誰もいないなんてな」
純一達が来た海は「氷」の暖簾を垂らした古びた海の家以外には特に何も無い場所だ。
杉並「ふ、俺が厳選に厳選を重ねて選んだ穴場だからな」
純一「まあ、みんな楽しそうにしてるし、よしとするか」
純一の言う通り、みんな(特に美春とさくら)は楽しそうだ。
智也「あれ?」
砌「どうした?」
智也は額に手をあて。
智也「いや、みんなの中に見慣れない子がいるような……」
目を細めながら言う。
杉並「藤倉、お前はこのメンバーに、まだ何かしら不満があるのか?」
智也「違う、お前も分かるだろ?ほら、あの……手に人形?か、なんか持ってる子だ」
みんなは一斉に女子達の方を向く。
杉並「ああ、あれは――」
師走「二年の月城だ」
杉並が言う前にその言葉を遮る師走。
砌「聞かない名前だな、知り合いか?」
師走「友達だ。何だみんな知らないのか?天枷の話だと結構知られてるみたいだけど?」
師走が言うと知らないとばかりに首を横に振る杉並以外の三人。
杉並「二年二組、月城アリス。何でも彼女は手に持ったマリオネットを使って人と会話をするとか、しないとか」
師走の横で説明する杉並。
智也「人形を使って?」
杉並「まあ、腹話術……と言ったところか」
師走「紹介がてらに天枷が誘っててな、まあ、あの様子じゃ問題ないみたいだけど」
美春が上手く紹介したのかみんなにも慣れた様子で接しているアリス。
杉並「よし、下準備は我々に任し、女子達は着替えて来るといい」
眞子「本当?ラッキー、行こうお姉ちゃん」
萌「はい、でも、その前に……」
そう言いつつ純一達の方に近づく萌。
萌「あのー……藤倉君……でしたっけ?」
智也「はい、そうですけど、何か?」
萌「これは、一体何処に置けばいいのでしょうか?」
智也はふと、彼女の持っている物に視線を移す。
――な、鍋?
まさしく、彼女の持っている物は紛れもない、鍋だ。
智也「は、はは……まあ、その辺に置いといて下さい」
萌「はい、ありがとうございます」
萌は、敷物の上に鍋を置くとぽてぽてと走って行った。
美春「行きましょう、音夢先輩」
音夢「うん」
さくら「お兄ちゃん、ボクの水着姿、楽しみにしててよね」
純一を覗き込みながらさくらは言った。
純一「……期待しないで待っていよう」

そして数十分後。

杉並「どうだ?俺自慢のビーチパラソルは、南国気分が味わえていいだろう?」
男子勢は、杉並の持ってきた自慢のビーチパラソルを立て、その下に座っている。
純一「夏の海にぴったりだな」
さくら「おにいちゃーん、見て見てー」
そんな純一達の元に一番に来たのは、スクール水着に身を纏ったさくら。
さくら「ほら、お兄ちゃんのリクエスト通りのスクール水着にしたんだよ」
さくらの言葉に驚愕する智也達。
師走「お前、そんな趣味が……」
純一「違う!断じて違う!おい、さくら、何勝手な事を……」
すぐさま否定する純一。
さくら「本当だよ、この前訊いたでしょ?新しく水着買うんだけど、どんなのがいい?って」
純一「はあ?……ああ、あの時の」
純一はしばらく考えて、思い出したように頷く。
智也「やっぱり心当たりが……」
純一「だから違うって!あれは、お前に似合うのはスクール水着ぐらいだって……」
さくら「えへへへ……そう言う事にしといてあげるよ。でも僕はお兄ちゃんが望むならなんだって着るよ?何なら着なくても……」
純一「な、何を言って……」
さくらの大胆発言に一瞬言葉を詰まらす純一。
すると。
ゴスッ
純一「ぐわ!?」
そんな純一の顔面に何処から飛んで来たのか、鞄が直撃し、そのまま倒れた。
音夢「おほほほ……ごめんなさい、少し、手が滑ってしまいまして」
どうやら鞄を投げつけたのは音夢のようだ。
智也「こいつらには、時々付いて行けなくなる時があるよな」
砌「全くだ」
倒れている純一を見ながら二人は言った。
純一「お前な!何処をどう手を滑らしたらこんな物が――」
起き上がってそこまで言った純一は声を詰まらせた。
杉並「ん?……おお、まさに百花繚乱!」
杉並他、智也、師走も着替えを済ました彼女達を見て感嘆の声を漏らす。
ことり「ちょっと……恥ずかしいです」
恥ずかしがっているのか、顔に手をあてながら言うのはことり。
「ことりとお揃いで買ったの」
「これは、お兄ちゃんが選んでくれたんだよ」
ことりに続いて言うのはことりの友人、みっくんと、ともちゃん。
美春「月城さんと選んで、新調したんですよー!」
飛び跳ねながら言っているのは美春。
アリス「……」
その横で、恥ずかしいのか黙ってしまっているアリス。
環「あの、どうでしょうか?」
砌に訊いているのか、そう言っているのは環。
眞子「藤倉、何処見てんのよ?」
いつもの調子なのは眞子。
智也「え!」
急に声を掛けられ口篭る智也。
眞子「まあ、智也ならどんなに見られても、いいけどね……」
と、彼女らしくない小さな……しかし、智也には余裕で聞き取れる位の声で、とてつもない事を言い出す眞子。
智也「は!?」
一方。
美春「わー、音夢先輩素敵ですー!」
音夢「そ、そうかな……・?」
音夢の水着は、大胆なのだが、本人は恥ずかしがっている
音夢「どうかな?兄さん」
純一「……」
純一が口を開こうとした。
その時。
萌「遅れてしまいましたー……紐が上手く結べなくて」
と言いつつ走ってくるのは萌。
しかし、そこでトラブルが起こった。
萌が、紐が上手く結べないと言っていたように、彼女の水着の紐の結び目が緩かったのか、走ってくるその振動で。
ハラ……
眞子「!?」
音夢「え!?」
近くにいた音夢と眞子が慌てて付け直す。
純一「!?」
智也「おお!?」
――し、刺激が……
――つ、強すぎる……
鼻血を吹き出しながら倒れ、薄れ行く意識の中、智也と純一は同じ事を思った。
さくら「お、お兄ちゃん、大丈夫!?」
音夢「もう、兄さんの不潔――――!!!」
紐を結んでいた音夢はさくらの言葉に振り向き、倒れている純一を見て、声を荒げるのだった。

それから。

音夢「もう……兄さんったら」
純一「悪かった、もういい加減機嫌直せ」
純一達が目覚めてから、純一は音夢の機嫌取りに追われていた。
ことり「朝倉君って、すっかり妹さんの尻に敷かれてますね」
そんな二人を見ていたことりがくすくす笑いながら言った。
純一「やめてくれ、こいつの尻になんか敷かれたら潰れちまう」
音夢「兄さん……どういう意味ですか?」
純一「コンビに弁当ばかりの食事は、非常にカロリーが豊富だと言うことだ」
ことり「二人って、面白いです」
まだくすくす笑っていることり。
音夢「もう、白河さんとは初めてなのに、変な印象付いちゃうじゃないの」
師走「純一―、泳ごうぜー」
海辺で師走達が手を振りながら言っている。
純一「かったりーな……分かった、今行く」
と言うと、師走達の方へ向かった。
音夢「ふう……それにしても、驚いちゃいました」
純一が行った後、呟く様に言う音夢。
ことり「え?」
音夢「学園のアイドルって言われている白河さんが兄さん達に誘われて海水浴に来るなんて,思いませんでした」
ことり「え、そ、そんなことないですよ」
みっくん「でも、最初杉並君から誘われた時。ことりったら少し迷ってたのよね」
と、近くにいたみっくんが言う
ともちゃん「決めてはやっぱりあれかな?……気になる人が一緒だったから?」
と、ともちゃんも続く。
ことり「もう、やめてよ、二人とも……」
少し顔を赤らめながら言うことり。
ともちゃん「恥ずかしがらなくてもいいって」
ことり「もう、知らない……私、ちょっと泳いできます」
そう言って歩き出すことり。
ともちゃん「あーあ、照れちゃって、もう」

一方。

ピロス「アリスが海に来たのも久しぶりだよ」
と、アリスが持っているマリオネット――ピロスは言った。
純一「へぇ、これが噂の」
杉並「なかなか上手いものだな」
杉並もピロスを見て感心する。
ピロス「え?何が?」
智也「月城の腹話術がとても上手だって事さ」
ピロス「もう、ボクが喋っているのは腹話術じゃなくて、アリスの代わりにアリスの思っている事を本当に喋ってるんだよ」
杉並「おーシチュエーションの設定もなかなかだ」
感嘆の声をあげる杉並。
師走「おい、その辺にしといてやれ……で、砌は?」
杉並「ふ、さっき胡ノ宮上と歩いて行ったが……」
その砌は、杉並の言っていた通り、環と一緒に砂浜を歩いていた
環「綺麗ですね……」
ふと、海を見ながら言う環。
砌「……そうだな」
環「杉浦様はよく海に行くのですか?」
砌「いや……最近来てなかったから、久しぶりだな……そんな事より思ったんだが、その様はどうにかならないのか?」
砌の言葉に首を傾げる環。
砌「他の呼び方を……下の名前で呼ぶとか、いろいろと……」
その時。
杉並「全く、真っ昼間からお盛んだな」
突如二人の前に現れる杉並。
砌「何の用だ?」
そんな杉並の奇襲に全く動じない砌。
それと同じかどうかは定かではないが、平然としている環。
こうして見ると、二人は似ているような気もしてくる。
杉並「……つまらぬリアクションだな。まあ、お前らしいけどな」
杉並はそう言うと「いやいや、お邪魔だった」と、二人の前から姿を消した
こうした賑やかな海水浴はまだ続く。


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