小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

Scene11

純一「おーい、花火買ってきたぞー」
辺りも日が暮れている・
萌「やっぱり最後は花火ですー」
そんな萌の言葉通り、純一と杉並が花火を買って来た。
美春「わー、打ち上げ花火もありますよ、音夢先輩」
と、ワイワイ言いながら花火に群がる一同。
智也「爆弾じゃないだろうな」
杉並「ふ、もっと面白いはずだ」
師走「……まあいいや、とにかく始めよう」
効して始まった夜の海辺で花火大会。
萌「眞子ちゃんー見てくださいー」
と、点火している打ち上げ花火を持って眞子に近寄る萌。
眞子「うわ!?」
美春「綺麗ですー」
アリス「はい」
と、花火を見ながら言う二人。
うたまる「うにゃにゃにゃにゃ!?」
さくら「にゃははは!」
さくらはというと、うたまるに花火を巻きつけ、空中でぐるぐると回っているうたまると遊んでいる。
環「砌様、これはどのようにすれば……」
と、花火片手に砌にそのやり方を訊く環。
砌「ああ、そこに火を付け……?」
その時、砌はある異変に気付いた。
環「どうしました?砌様」
砌「いや、今……名前で」
そう、環は砌を下の名前で呼んでいたのだ。
環「はい、お昼に砌様が言ってらしたので……あの、もしかして駄目でしたでしょうか?」
砌「いや、そんな事はない」
ことり「きゃっ」
ともちゃん「あははは、ことりったら近づきすぎだよー」
杉並「行くぞ、これより特性ロケット花火の点火準備に移る、皆、対ショック、対閃光防御!!」
杉並は脇に抱えた「かーるぐふたふ」と書かれた巨大な花火を持ち、叫んでいた。
音夢「綺麗だね、兄さん」
純一「ああ」
純一と音夢は、二人で線香花火をしている。
こうして、みんなの思い出に残るであろう夏休みの海水浴は幕を閉じた


それから、しばらくしないうちに。

純一「今度は夏祭り!?」
家で気だるい一時を満喫していた純一に音夢とさくらが「夏祭りに行こう」と言ってきたのだ。
純一「おい、この間海に行ってきたばかりだろう?」
さくら「それとこれとは話が別だよー、ねえ、行こうよ、お兄ちゃん」
まるで子供のようにダダをこねるさくら。
音夢「昨日眞子と電話してたら、行こうって話しになって……」
純一「もう、準備万端って訳か」
純一がそう言うと揃って頷く二人。
純一「……分かった。で、他に誰が行く事になってんだ?」
二人の説得に、純一は渋々応じた。
音夢「えーと……眞子が何人か誘うって言ってたけど……」
純一「要するに、行けば分かる、そう言うことか」
さくら「うん、そゆことそゆこと」

そして、当日。

約束の時間になったので、純一達は揃って待ち合わせ場所へ向かった。
純一「お、工藤にななこも来てたのか」
純一は待ち合わせ場所に来てすぐに視界に入った工藤とななこに声をかけた。
工藤「ああ、少し前に水越さんに行けないかって連絡が入ったんだ」
ななこ「私も、そういう連絡があって」
純一「へぇ。という事は、ななこを誘ったのは工藤か」
純一はそう言いながら工藤に視線を移す。
工藤「え?いや、俺じゃないけど」
と、手を振りながら答える工藤。
純一「……ということは、一体誰に……?」
眞子「あたしよ」
考え込んでいる純一に眞子が言った。
純一「え!?眞子が誘ったのか?」
純一は意外な人物に驚きながら言った。
眞子「何驚いてんのよ?」
純一「いや……眞子がななこと知り合いだったとは」
ななこ「小学校の時に、同じクラスだったんです」
二人の会話を聞いていたななこが答える。
純一「なぬっ?」
工藤「へぇーそれは知らなかったよ」
眞子とななこの意外な接点に純一と工藤は驚いた。
眞子「まあ、腐れ縁ってヤツ?ところで、朝倉こそ何でななこの事知ってるのよ?」
眞子も意外そうに純一に訊く。
純一「ん?まあ、ヤギがな……なあ、藤倉」
純一は同意を求めるべく、近くにいた智也に声をかけた。
智也「え?朝倉、お前も来てたのか?」
純一「ああ、音夢とさくらに連れて来られてな」
智也「そうか、そりゃ、難儀だったな」
眞子「ちょっと!何か話がずれてきてるんだけど?」
話が別方向に飛びかけていた二人を、眞子が呼び戻す。
智也「ん?何か、話してたのか?」
事情を知らない智也が訊く。
工藤「俺達がどうしてななこさんの事知っているか、だよ」
智也「ああ、何故って……ヤギ、だな」
純一「だろ?」
智也の回答に頷く純一。
眞子「ヤギ?どういう事?」
純一「まあ、気にするな。しかし」
そう言いながら辺りを見回す純一。
純一「ほとんど海水浴のメンバーだな……」
ことり達と杉並を除き、工藤とななこが入った事を除けば他は全てこの前の海水浴のメンバーだった。
師走「しかし、意外だな、杉並が来てないなんて」
こういう時、一番来そうなやつが今回は来ていない。
砌「まあ、そのうち出てくるだろ」
美春「先輩方ー。皆さん揃ったようですので、早く行きましょうー」
こうして、みんな揃っての屋台巡りが始まった。


――しそれにしても……
師走「いきなりはぐれるか?普通」
人込みの中で孤立する師走。
――原因は天枷と芳乃さんだな……
出発してからさくらと美春のテンションは時間が経過する度に上がっていき、挙句の果てにはさくらは、お面やくじ引きを見つける度に大はしゃぎし、美春はバナナクレープ屋を見つけて、同じく騒いでいた。
それは、みんなが手をつけられなくなるほどだった。
その結果、予想以上の人の多さもあり、みんな散り散りになった、という訳である。
師走「まあいいや、適当にぶらつこう……」
そしてゆっくり歩き出した師走。
「先輩」
――ん?
「先、輩」
歩き出してすぐ、師走の耳に奇妙な声が聞こえてきた。
――な、何だ?この怪しげな声は……?
どうやら声は背後から聞こえてくるらしい。
しかし、始めこそは突然の事に驚いてしまっていたが、冷静になって聞いてみるとその声に師走は聞き覚えがあった。
師走「……」
――私、先輩の事が……
――これ以上無視し続けるとさすがにやばい気がする
師走は溜め息をつくと立ち止まり、後ろを振り向く。
師走「……お前ら、ふざけるのもいい加減にしろ」
師走の予想通り、中腰になり、口に手を添えている信と杉並がいた。
信「何だ、バレてたのか」
杉並「完璧な物真似だと思ってたのになぁ」
と、心底残念そうにする二人。
師走「一体誰の真似のつもりだ?」
――俺が聞いた限り、俺の知っている人には誰にも似てなかったような気がする
杉並「北東の地方に住む、先住民のペンジョンさん八八歳の物真似だ」
信「俺も結構似てると思ったのにな」
――北東に住む八〇歳を越える人が、果たして先輩という単語を知っているのだろうか
師走「……」
無言でこの場を去ろうとする師走。
杉並「まあ、待て。単なるジョークだ」
信「ああ、実は師走に頼みたい事があってな」
師走「頼みたい事?」
師走は訝しげに二人を交互に見る。
杉並「言っておくが、決して怪しい頼みではない」
師走「得体の知れない物真似をしながら近づいて来た時点で、十分怪しいぞ」
信「おい、それじゃあペンさんに失礼じゃないか」
師走「それは本当なのか!?」
師走は即座に突っ込みを入れた。
ペンジョンさんとやらが一体どんな人かは知らないが、どうせこいつら二人の知り合いだ、人間じゃない可能性もある……などと師走は思った
――だって、ヤギだもんな……
杉並「まあ、聞くだけ聞いてみろ」
杉並に言われてとりあえず聞いてみる事にした師走。
師走「で、何なんだ?」
杉並「実はな、つい先程この近くで白河ことりとその親友、みっくんとともちゃんが一緒に歩いているのを見かけてだな」
師走「悪い……話がいまいち見えてこないんだけど」
信「まあ、話は最後まで聞け。そこでだ、是非お前にみっくんとともちゃんを誘って欲しい」
師走「……要するに、俺に二人をナンパしろ。そう言いたいんだな?」
杉並「おお、物分りがいいとこちらも助かる」
師走「……」
再び、無言でこの場を去ろうとする師走。
信「ま、待て。師走」
歩み去ろうとする師走の方を信が掴み、止めた。
師走「断る!何故だか知らないけど、何で俺が二人をナンパしなくちゃならないんだ?」
杉並「そう言うな、考えても見ろ、これはお前にとっても当に千差一遇のチャンスなのだぞ?」
信「つまりだ……」
意味が分かっていないらしいと解釈した信は師走に分かりやすいように説明した。
信「もしお前が成功し、二人と仲良くなれば、交友関係も広がり、これをゲットする確率も上がるということだ」
と、小指を立てる信。
杉並「その通りだ。もしかしたら二人のどちらかと……なんて事もあるかも知れん」
師走「……」
師走はしばらくの間考え込んだ。
――確かに、考えてみれば悪い話じゃない
師走「よし、その話、乗った!」
つい先程までとは正反対の態度を見せる師走。
信「そうと決まれば……」
杉並「早速二人のいる場所へ案内する」
師走「分かった」
師走が頷くと、そのまま三人は人込みの中へと消えて行った。

-11-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える