小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene12

杉並と信の誘いで、ナンパをする事になった師走。
杉並「ほら、あそこだ」
杉並が目配せをする。
その目線の先には屋台巡りをしているみっくんとともちゃんがいた。
信「健闘を祈るぞ。師走」
師走「ああ。じゃあ、行ってくる」
師走はそう言うと二人の元へと向かって行った。
杉並「当初の予定通りだな」
信「ああ、これは面白くなりそうだ」
人込みに隠れつつ師走の様子を覗う二人。
信「お前はどっちだと思う?成功するか、失敗するか」
杉並「ふ、別にどちらに転んでも、俺としては面白い結果になるからどうでもいいがな」
信「俺は失敗すると見るがな」
極度のブラコンと聞いているみっくんはまず間違いなくアウトである事は言うまでもないし、ともちゃんの方も師走では望み薄、と信は睨んでいた。
杉並「どうやら、成功したようだな」
信「そうか……何!?」
師走はなんと二人を誘い出すことに成功、既に三人で行動を開始している
勿論、失敗すると思い込んでいた信は、杉並の予想外の言葉にただただ驚くしかなかった。
杉並「さて次は……おお、丁度良い所に」
杉並は師走達とは別方向を見ながらニヤリと微笑した。
師走「でも、良かったのか?白河さんほったらかしにして、一緒に来てたんだろ?」
杉並の話ではことりも一緒だと言う事だったが、今思えばこの場にはみっくんとともちゃんしかいない。
みっくん「気にしないで。これもことりの為なんだから」
ともちゃん「うんうん、あれ?でもどうして藍澤君がその事を?」
師走「え?ああ、いやいや気にするな、それより、あっち行ってみよう」
その頃、あの二人は別の二人組みを尾行していた。
杉並「ふ、あともう少しだな」
信「どうしたんだ?杉並」
信はそう言いながら尾行している二人を見る。
信「別にわんこを追っかけても面白くないだろ……ん?もう一人は……」
杉並「二年の月城だ。なーに、その内面白いものが見れるぞ。俺の情報が正しければな」
一方、その二人は。
美春「月城さん、次は何処に行きましょうか?」
ピロス「そうだね……」
美春「それにしても、藍澤先輩は一体何処に行ったんでしょうか?」
と、二人で屋台巡りを満喫しているようだった。
ピロス「あっちの方にも……あれ?」
アリス「え……?」
ピロスとアリスは同時に声を漏らし、その場に立ち止まった。
美春「月城さん、どうしたんですか?」
アリス「あそこに、先輩……藍澤先輩が」
アリスの目線の先にはみっくんとともちゃんと楽しそうにしている師走がいた。
美春「えっ?」
美春も驚いたらしく、その場に立ち止まった。
杉並「よし、予想通りの展開だ」
アリスと美春の様子を見ていた杉並が微笑した。
信「ああ、そう言う事か……」
信も状況を理解したのか、苦笑いを浮かべながら言った。
杉並「どうやら跡を尾けるようだな」
師走の跡を追う事にした二人。
二人の顔はいつになく真剣である。
美春「藍澤先輩、結構楽しそうですよね……」
アリス「そう、ですよね」
美春もアリスも共に気落ちした声で話している。
信「おいおい、二人とも何だかすごい落込んでるぞ」
杉並「ふむ、そのようだな。まあ、当然か」

一方、他はというと。

砌「ほら、綿飴だ」
砌はそう言いながら買ってきた綿飴を環に渡す。
環「ありがとうございます、砌様」
師走同様、みんなとはぐれてしまっていた二人は一緒に屋台を巡っていた。
環「でも、皆さんは一体どちらに行ったのでしょうか?」
綿飴を食べながら言う環。
砌「さあな、まあ、歩いていればどこかで出会うだろ」
環「それも、そうですね。あ、砌様」
環はある屋台の前で足を止める。
環「あそこは、何をやっているのですか?」
環の言葉に砌はその屋台を見る。
砌「あれは、射的だな」
環「射的……ですか?」
その屋台とは祭りでもよくある、あの射的だ。
砌「やってみるか?」
環「え?……はい」

その頃。

純一「さて音夢。次、何処行く?」
音夢「えー……と。あ、あれやろう?兄さん」
音夢は金魚すくいの屋台を指差した。
純一「お、金魚すくいか。よし、待ってろ」
そう言うや否や純一は手早く金魚を取り。
純一「ほら」
と、それを音夢に渡す。
音夢「わー。兄さんって結構上手いんだね」
純一から金魚を受け取ると感心して言う音夢。
純一「結構久しぶりだったけど、まだまだやれるな」
さくら「あ、お兄ちゃんいたー!」
遠くからさくらが叫びながら純一に近寄ってきた。
さくら「もう、お兄ちゃん達、何処行ってたんだよー」
純一「それはこっちの台詞だ。しかし……」
純一はさくらを見て。
音夢「さくらちゃん、ずいぶん買い込んだねー」
音夢も同じ事を思ったのか、さくらを見ながら言った。
戻ってきたさくらはお面に団扇、それに鉢巻など、いろいろな物を買い込んでいた。
さくら「にゃははは……。だって、日本のお祭りなんて久しぶりだもん、何だか嬉しくなっちゃってさ。あ、おにいちゃん、あれしようよー」
と、純一の返事を待たずして行ってしまうさくら。
純一「やれやれ……。あれじゃ、本当に子供みたいだな。行くぞ、音夢」

その一方。

眞子「あーあ……。藤倉、何処行っちゃったのかなー……」
と、綿飴片手に智也を探しているのか辺りを見回している眞子。
萌「眞子ちゃん。ここのたこ焼き、とてもおいしいですよー」
たこ焼きを買ってきたのか、萌が言いながら来た。
眞子「お姉ちゃん、その量……」
眞子が見てみると、そこには山盛りに詰まれたたこ焼きを抱えながら食べている萌の姿があった。
智也「うーん、結構回ったな……」
――ん?
智也は、人込みの中に見覚えのある人影を見かけたような気がした。
――今さっき、信と杉並がいたような
智也はしばらく考え。
――そんな訳ないか
智也「さて、次は何処に行こうかな」
そんな事を思っていると。
「藤倉君」
――ん?
後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた。
振り返ってみると。
智也「ことりか」
ことり「やっぱり藤倉君でしたか」
そこには浴衣姿のことりがいた。
智也「ことりも来てたんだ。もしかして、一人?」
ことり「いえ、友達と来てたんですけど、はぐれちゃったみたいで。藤倉君は?」
智也「まあ、俺も同じようなもんだな。この人込みじゃ」
改めてこの祭りに来ている人の多さを実感する。
智也「よし」
ことり「え?何ですか?」
智也「ここで会ったのも何かの縁だし、はぐれた者同士、一緒に回らないか?」
ことりは一瞬間を置いたが。
ことり「うん、行こう」
智也「よし、そうと決まれば、さっき美味そうな屋台見つけてさ。奢るよ」
ことり「え、でも悪いよ」
遠慮するように手をパタパタ振りながら言うことり。
智也「おいおい、今日の俺の懐は結構暖かい方だぞ?」
と、自分の胸を叩きながら言った。
ことり「それじゃあ……お言葉に甘えて」
智也「じゃあ、行くか」
その頃師走はというと、ともちゃんとみっくんと別れていた。
師走「うん、結構良いものだな……」
――ある意味、天枷と芳乃さんに感謝しないとな
などと思いつつ歩いていると。
「先輩」
「先輩!!」
背後から聞き覚えのある声が聞こえる。
しかし、人込みが多いせいかガヤガヤしており、上手く聞き取れなかった。
――ん?また杉並の奴らか?
師走「全く、お前らいい加減に――っ!?」
師走が振り向くとそこには何故だかかなり悲痛な表情の美春とアリスがいて、師走の事を見つめていた。
師走「天枷……月城」
――何だってこんな所に
師走の脳裏にある悪い予感が過ぎる。
――もしかして……見られてたのか?
美春「先輩……」
アリス「……」
師走「……」
気まずい沈黙が三人の間に漂う。
――ええい、ここは!
師走「お、良い所に、美春、さっき美味いバナナクレープ屋見つけたんだ、奢ってやるよ」
美春「……」
師走のバナナ誘いでも変わらない美春の表情。
師走「……」
――……やっぱし、駄目か
その後師走は、二人を全力で説得し続ける事になった。

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