小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene13

師走「はあー……」
師走は、自分の財布の中身を見ながら溜め息をついていた。

今から数分前。

美春「先輩!ひどいですよー!」
アリス「ひどいです」
みっくんとともちゃんと一緒にいる所を偶然見られた師走は二人から追及を受けていた。
美春は見るからにご立腹の様子で、アリスはあまり表情には出ていないもののやはり怒っているのか目付きが鋭かった。
――ん?待てよ……
二人から非難を浴びせまくられている師走はある事に気付く。
――今思えば、なんでこの二人にここまで怒られなくてはいけないのか?
師走のそんな疑問は次の美春の一言によってあっさりかたが付く事となる。
美春「先輩、行く前に月城さんと私とでいろんな屋台回ろうって言ってくれたじゃないですかっ」
師走「……あ」
――忘れてた
師走は確かに美春とアリスにそう言う約束をしていた。
しかし、今までの事ですっかり忘れてしまっていたのだ。
師走「本当にごめん!俺が悪かった」
結局、自分が悪い事に気付いた師走は、このとおり、とでも言うように両手を合わせ、二人に謝った。
美春「……まあ、先輩も反省しているみたいですし。許してあげましょうか」
月城「はい」
師走「はは、は……。さて、お詫びに二人に何か奢るよ」
師走がそう言うや否や。
美春「先輩、本当ですか!わーい、美春はバナナクレープがいいです」
師走「月城も、それでいいか?」
アリス「はい」
かくして三人は無事、仲直り……に見えたが、師走の運はここで尽き果て、本当の地獄はここからだった。
それは、仲直りしてから今に至るまで、美春とアリスの要望に答えてきた師走の財力はこの数分で見事に底を尽きかけていた。
そんな三人を草間の影から覗いていたのは、杉並と信。
杉並「まあ、これ位にしといてやろう」
信「うん、結構面白かったな」
満足そうに頷いている信。
杉並「この程度で満足とは、まだまだだな」
信「どう言う事だ?」
杉並「これで終わりじゃないという事だ」
と、楽しそうに話す杉並。
信「まだやるのか?」
杉並「我々は、常に貪欲であり、常に面白い物を自ら提案し、実行しなければならないのだよ」
と、もっともらしい事言う杉並。しかし、それが常識的だとは、誰も思わないだろう。
杉並「まあ、これは大佐の受け売りだがな……。くくく、師走が終わったら今度は。行くぞ信。そろそろ撤収だ」
信「わかった」
そんな二人の思惑など、今の師走は微塵を知る訳もなかった。


一方、工藤とななこも同じくみんなとはぐれてしまっていて、二人で歩いている。
工藤「ななこ……さん?」
工藤は今日で何度になるのか、ななこの名前を口にしている
ななこ「……」
しかし、いずれもななこの耳には届いていないようだ。
何故なら、彼女は屋台や行きかう人々を見てはメモを取り出し、何かをメモしている、そう、すっかり自分の世界に入り込んでいるのだ。
工藤「順調そうだね」
ななこ「そうなんですよ、今日は頭の調子もよく……って!な、何がですか!?」
ようやく工藤に気付いたのか驚いたように声をあげた。
工藤「この調子なら、すぐ、元通りになるんじゃないのか?」
ななこ「あ、はい、おかげさまで……」
ななこは、たはは……と苦笑しながら言う。
有働「あんな事で良ければ、また何か手伝うよ」
ななこ「ほ、本当ですか!?」
工藤の言葉に表情が明るくなるななこ。
工藤「うん……。ところで、すごく気になるんだけど、何をメモしてるの?」
ななこ「はい、今後の展開の資料に……ごほっごほっ……ん、ん、あ!工藤君、あれやりませんか!?」
工藤「え?……わわ……」
ななこはそう言うと工藤を引っ張って行った。

その頃、智也は。

智也「お、おい、そんなにくっつくなよ」
眞子「いいじゃない、減るもんじゃないし」
ことりと一緒に歩いていた智也は、偶然眞子と萌に出会っていた。
智也「減るもんじゃないって……あのなあ――」
眞子「あ、藤倉、あれやろう?」
合流してから今まで、智也にくっついて離れようとしない眞子。
ことり「水越……眞子さん、楽しそうですね」
そんな二人のすぐ後ろをことりと萌が歩いていた。
萌「はい、ふふふ、眞子ちゃん、藤倉君といるといつもあんな風に嬉しそうなんですよ」
ことり「と言う事は、二人は付き合ってるんですか?」
ことりのそんな質問に萌は。
萌「そうですねー……私が見ている限りでは、お付き合いしている訳ではないみたいですよ」
と、前を歩いている眞子を微笑みながら見て言った。
ことり「そうですか……」
ことりはそう言いながら、同じく眞子と智也を見ていた。
その時。
「ことりー」
と、ことりを呼ぶ声が聞こえる。
ことり「あ、みっくんにともちゃん。二人とも、何処行ってたの?」
ともちゃん「まあまあ、そんな事よりも」
みっくん「ことりも……ねぇ?」
二人はお互い顔を見合わせ、眞子の相手に苦戦中である智也を見ながら言った
ことりもそんな二人の心中を悟ったのか。
ことり「ち、ちがうよ。藤倉君とは偶然出会って、それで……」
と、半ば焦り気味で言う。
ともちゃん「誰も藤倉君の事なんて一言も言ってないけどぉ?」
と、くすくす笑いながら言うともちゃん、みっくんも同様に笑っている。
ことり「……もう」


純一「――ったく、結局疲れて眠っちまうなんて、ホント子供のままだよな」
音夢「さくら、ここのお祭りは久しぶりって言ってたから、よっぽど嬉しかったんだね」
一方、純一は疲れ切って眠ってしまっているさくらをおぶっていた。
音夢「ところで兄さん、あとどれ位かな?」
純一「さあ?時間的にも、あと少しで始まるんじゃないか?」
そんな話をしつつ歩いていると。
「せんぱーい、音夢せんぱーい」
音夢「あ、美春――」
美春の声に音夢が振り返るが否や、犬の様に飛びつく美春。
純一「何だ、月城と美春は師走と一緒だったのか」
師走「ああ、しかし、お前も大変だな」
師走は純一の背中で気持ち良さそうに寝息をたてているさくらを見て言った。
純一「全くだ。でも、俺より大変な奴もいるもんだな……」
純一は視線を横にずらしつつそう言った。
智也「あ、朝倉、師走……おっと……ったく、眞子、いい加減離れろ、歩き難いだろうが」
師走「……確かに」
師走は、ぴったり眞子にくっつかれている智也を見て声を漏らした。
音夢「あ、眞子……。それに白河さん達も、来てたんですね」
智也と眞子の後ろから来たことり達。
ことり「はい、藤倉君達と偶然出会って」
智也「あれ?砌はいないのか?」
純一「ああ、俺は見てない、よな?」
音夢「ええ」
師走「でも、こういう時は向こうからひょっこり現れるのが……」
と言ってる傍から。
環「皆様、ここにいらしたんですね」
と、環と砌が歩いてきた。
音夢「どうやら、藍澤君の言った通りになりましたね」
萌「すごいですー。藍澤君って、超能力者だったんですねー」
と、本気で感心している萌。
師走「いや、そんなすごい事ではないと思うんだけど……」
砌「……もうそろそろ始まるぞ」
砌が携帯を取り出し、時間を確認しながら言った。
その時。
ドーン……パチパチ……
派手な音と同時に夜空に花火が上がった。
師走「お、始まったな」
美春「わー……」
萌「綺麗ですー」
環「本当ですね」
アリス「……綺麗」
智也「来て良かったな」
砌「ああ」
みっくん「わー、すごーい」
ともちゃん「綺麗だね」
ことり「うん」
音夢「来年も行きたいね、兄さん」
純一「ああ。まあ、な」

次の日。

音夢「昨日は楽しかったね」
純一「ああ、たまにはこういうのも良いかもな」
朝の穏やかな時間。
さくら「おにいちゃーん!」
そんな中、朝っぱらから朝倉家に響くさくらの声。
純一「何だ?さくら、朝っぱらから大声出して」
さくら「ひどいよ!お兄ちゃんに音夢ちゃん」
音夢「え?」
純一「は?何の事だ?」
さくら「昨日の花火大会、何で僕を起こしてくれなかったのさー!?」
必死の表情で何とも子供みたいな事を言うさくら。
純一「え?ああ、それは……お前があんまり気持ち良さそうに眠ってるもんだから……なあ?音夢」
音夢「う、うん、そう、何だか悪い気がしちゃって……」
本当の所、あまりの花火の凄さに、さくらの事をすっかり忘れてしまっていた二人。
純一と音夢は引きつった笑顔を浮かべながら言った。
さくら「うにゅー……僕、かなり楽しみにしてたのに……」
何だかさくらの夏祭りの思い出は、楽しかったような悲しかったような、複雑な物となった。

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