小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene15

数日前。
純一「さて、やっと今日からのんびりと夏休みを満喫できるな」
純一は寝返りを打ちながらそう呟いていて。
純一「今日はどう過ごそうか」
純一は然程考えず「一日中だらけて過ごす」と決定した。
純一「そうと決まれば、お休みなさーい」
そして、目を閉じる純一だったが。
さくら「お兄ちゃん、おっはーー!」
純一「ぐほっ!?」
窓が開く音とほぼ同時に純一の腹部にさくらが降りてきた。
降りると言うよりむしろ「落ちる」の方が適切かもしれないが。
さくら「あれ?お兄ちゃんは……?あー!大丈夫!?お兄ちゃん」
――どうやら、今日、俺は平和に暮らせないらしい……
と、騒ぐさくらとうたまるの鳴き声を微かに聞きながら、意識は暗闇に落ちて行った。
そして。
純一「……それで、またどこかに行きたいと言うのかお前は?」
目覚めた純一はまだ痛みの残る腹部をさすりつつさくらに訊く。
さくら「うんうん、だってせっかくの夏休みだもん。楽しまなくちゃ。だよね?音夢ちゃん」
音夢「そうですね。このままだったら兄さん、ずっとだらしなく生きて行きそうなので」
さわやかな笑顔を純一に向けながら言う音夢。
純一「しかし、どこに行く気なんだ?今からじゃ、どこも予約でいっぱい――」
杉並「その辺はぬかりないぞ」
純一の言葉を遮るように突然現れた杉並が言う。
純一「な!?お前、いつの間に……」
杉並「毎度毎度同じリアクションご苦労だな」
杉並はジト目で睨んでいる純一の肩をさわやかな顔を浮かべながら叩く。
音夢「一体どう言う事ですか?」
音夢が訊くと杉並は「待ってました!」とでも言うように。
杉並「ふ、良くぞ訊いてくれた朝倉妹よ。皆、これを見よ!」
杉並はそう叫びながら片手を高く上げた。


純一「つー訳で、俺達はこうしている訳だが」
純一、智也、師走、信、杉並、音夢、さくら、ことり、美春、アリス、萌、眞子の計十二人は杉並が持っていたタダ券で、いろいろな施設の整った「ジャングルパーク」に向かうバスに乗っている。
美春「ジャングルパークって、いろんな施設がある場所ですよね」
杉並「プールに温泉、動物園はたまた遊園地までも、さらには近日中に水族館も増設されるらしいな」
音夢「うん、動物園では、ダチョウが一番人気なんだって」
音夢がパンフレットを見ながら言う。
萌「ダチョウさんですか?見てみたいですー」
杉並「さらに、ここの温泉は肌に良いと言われ、美肌効果もあるそうだ」
眞子「え!?本当?」
そして、一向はジャングルパーク。
純一達は数ある施設の中、どこに行くか考えた結果、夏という事もあり、プールに行く事にした。
智也「ん?杉並はどうした?」
純一「あれ?さっきまでここに……」
アリス「深見先輩もいません……」
着替えてきた純一達が気付いたときには、信、杉並は何故だか姿を消していた。
師走「どうせろくな事やってないんだろ?それより泳ごうぜ」
美春「そうですね、音夢先輩、泳ぎましょう!」
音夢の手をとりつつ走る美春。
音夢「美春っ。そんなに引っ張らなくても……あ、白河さんも一緒に」
ことり「はい」
美春「月城さんも行きましょうー!」
アリス「はい」
と、二人の跡を追う。
ちなみに、ここでもアリスはピロスを持っている。
眞子「お姉ちゃん、泳ご?」
萌「はい。眞子ちゃん、待ってくださいー」
先に行った眞子を追う萌。
智也「やっぱ……いいよなぁ」
純一「ああ」
そんな眞子と萌(と言うか萌)を見ていた二人。
師走「……お前ら、何やってんだ?」
プールから上がった師走が見たのはプールを見ながらボーっとしている純一と智也だった。
智也「お、師走か。お前、萌先輩どう思う?」
師走はそんな二人の空気に一気に呑まれた。
師走「そうだな……。なんか、他とは違う雰囲気だよなあ」
師走の言葉に頷く二人。
智也「確かに、先輩以外が良くないってことは勿論、決してないんだけどな」
純一「ああ、何って言うか、あれが「年上の女性」……なんだな」
師走「ああ、レベルが違うよな」
智也「姉妹で……いや、たかだか一つ違いで、何故あんなにもの差が出来てしまうのか?」
純一「音夢も見習って欲しいものだな……。先輩の性格なり何なり」
音夢「誰の何を見習うんですか?兄さん」
――!?
純一が声のした方を向くと、そこには不気味なオーラを全身から発している裏音夢がいた。
――これは……避難した方が良さそうだ
師走と智也はこれから起こるであろう事を予期し、互いに目配せをした後、その場を離れる。
純一「ねっ音夢……これは違う。誤解だ」
引きつった笑み浮かべながら少しづつ後退しようとする純一。
しかし、後ろにはプールが待ち受けており、そこには何も知らないさくらや美春達が楽しく遊んでいる。
今まさに、天国と地獄は隣り合わせになっている。
純一「……」
かと言って二人はプールに飛び込まない。いや、出来ないのだ
仮にここでプールに飛び込み、上手く逃げれて難を逃れたとしても、純一は家で、もしくは帰り道にさらにとんでもない事をやられかねない事を知っているからだ。
音夢「に・い・さ・ん!」
そんな純一を徐々に追い詰めていく音夢。
純一「お、おい、待て……」
ぎゃーーーーーー!!!!

そして。

さくら「わー、おっきいー!」
一行は杉並によると美肌効果もあると言われている「ジャングル温泉」に来ていた。
美春「わー、芳乃先輩、美春も一緒に……あれ?」
さくらと共にお風呂に飛び込もうとした美春は何だか様子のおかしい音夢に気付く。
美春「白河先輩、音夢先輩どうしちゃったんでしょうか?」
ことり「えーと……どうしちゃったんでしょうかね?」
ははは……と苦笑いを浮かべながら答えることりだった。

その頃、男湯でも様子のおかしい者が一名いた。
純一「……」
杉並「師走よ、俺達のいない間に、朝倉に何があったのだ?」
信「藤倉、お前たちは一緒にいたんだろ?何か知らないのか?」
師走「ああ……ちょ、ちょっとな」
智也「俺達からは何とも……」
杉並「……まあ、そんな事はどうでもいい。ところで」
杉並は前髪をかき上げながら立ち上がった。
智也「こっちもどうでもいいが……ここまで来て決めるなよ」
杉並「ふ、やはり自分のキャラはしっかり確立しとかんとな」
と言い、また決める。
純一「さっさと用件を言え」
杉並「何だ、つまらん。……まあいい、信」
信「ああ、任せろ」
そう言って信は男湯の塀を指差した。
信「よく聞け藤倉!ここの塀は意外と低く作られていてな。ここから簡単に登って行けるのだ!」
智也「……何故俺限定かは知らんが、要するに俺に行けと。そう言う事か?」
信「何故お前かは杉並の意思だ」
智也「杉並!お前は俺を犯罪者に仕立てるつもりかっ」
杉並「まあ待て、藤倉……実はな」
杉並は塀の上を見ながら。
杉並「つい先程、石鹸があの上に上ってしまったらしくてな、是非お前にとって来て欲しいんだが」
智也「断固断る!お前が取りに行け」
絶対に行かない意思を示す智也と、その傍らで頷いている純一と師走。
信「……仕方ない。ここは一つゲームでもして誰が行くかを決めよう」
智也「何でそうなるんだ!?」
杉並「そう吼えるな。要はゲームに勝てばいい。それだけの事であろう?」
そんなこんなで始まったゲームの結果。
智也「……く」
杉並「健闘を祈るぞ、藤倉」
杉並の言い出したゲームとは何のこともないただのジャンケンだったのだが、信じられなことに、智也は杉並に20連敗を喫してしまった。
――おかしい……何かがおかしい
訝るものの。杉並におかしな様子などなく、完全に智也の敗北であった。
――そうだ……俺は石鹸を取りに行くだけだ。それ以上でも、それ以下でもない
まるで呪文のようにそう呟き続け、とうとう女湯の塀近くまで来た。
――えっと……石鹸は?
智也「お、これだ、これだ――」
智也は石鹸を拾い、立ち上がろうとする。
「音夢先輩っ、お背中お流ししますよ」
「や、止めなさい、美春……」
――!?
塀の向こう側から美春と音夢らしき声が聞こえた。
――いや、何を考えてるんだ俺!お前は石鹸を取りに来ただけだぞ!
「何言ってるんですか?美春と先輩の仲じゃないですか」
「え!?……二人はそう言う仲だったんですね」
「そうじゃなく……」
「そうなんです!何なら前の方も……」
「わー……。音夢先輩、美春惚れ直しました」
――!?
「うにゃ!白河さんもなかなかのもんだにゃー」
「きゃっ」
――お、落ち着くんだ……。そうだ、早くここから離れよう……そうしよう、そうしよう……
「で……でも、萌先輩ってやっぱり……」
「あまり大きいと考え物ですよー……。肩が凝っちゃったり……」
「眞子ちんのも、なかなかのもんだにゃー!」
――ぐおおおおっ
果たして、智也の理性はこの状況に打ち勝つ事が出来るのか?

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