小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene16

――お、落ち着くんだ……このままでは、奴等(杉並、信)の思い通りに……
智也の頭の中では理性と欲望が熾烈な争いが続けられていた。
しかし。
智也「やはり……これは男として抑えられん」
勝者、欲望。
智也は、女湯の塀に手を掛け、ゆっくりと顔を上げる。
――っ!?
そこで智也が見たものは。
まるで天国のような絶景。
――のはずだったが。
智也の目に映ったのは、彼と同様に塀を登っていることりの顔だった。
ことり「何してるの?」
笑顔で智也に訊くことり。
智也「い、いや……これは……その」
突然且つ、誰もが予想し得ない展開に智也は戸惑い、驚き、そして焦った。
さらに不幸が不幸を呼び。
智也「わっ」
塀の下に置いていた石鹸に足を滑らせ。
智也「わっ……わ……」
わーーーーー!!
そのまま下へと落ちて行った。
美春「何だか、男湯の方が騒がしいですね?」
萌「何だか楽しそうですー」

一方、智也が落ちた男湯では。

杉並「藤倉、風呂での飛び込み……あまり関心せんな」
信「あっちで何かあったのか?」
智也「……知るか」
――でも、どうして分かったんだ?


萌「あぅ……のぼせちゃったみたいですー……」
フラフラの萌。
さくら「みんなー、お風呂上りだよー。卓球しようよー」
そんな萌とは正反対なさくらは何処から出したのか卓球のラケットを持っている。
師走「お!面白そうだな」
美春「美春も交ぜてくださいー。あ、月城さんも一緒にやりましょー」
アリス「卓球……ですか?」
師走「月城は卓球した事あるのか?」
黙って首を横に振るアリス。
美春「では、美春が一から十、ピンからキリまで教えてあげますよー」
そう言って、アリスに卓球を教え始める美春。
智也「天枷の言葉の使い方はともかく……みんな元気なもんだな」
純一「ああ、全くだ」
智也と純一は壁にもたれながら卓球を始めているみんなを見ていた。
「ふ・じ・く・ら・君」
ビクッ
――そ、その声は……
智也はゆっくりと声のした方を向くと。
そこにはことりが手を振りながら、智也を呼んでいた。
――……やっぱり
純一「ん?何処行くんだ?」
智也「あ、ああ……ちょっとな」
智也はそう言い残し、彼女の元へと向かった。
ことり「ちょっと来てくれる?」
智也「い、い一体何でございましょうか……?」
――うわー、ことりにはさっきの覗き、見られたからな
ことり「何かって……大した事じゃないんだけど……藤倉君に頼みたい事があったりしてー」
満面の笑みで言うことり
学園のアイドルであることりの笑顔。しかし、今の智也はその笑顔に恐怖心すら覚えていた。
ことり「でも……うー……ん。どうしようかなぁ」
――!?
智也「うわーっ何でも言う事聞きますから。黙っていて下さい!!」
必死だった。
大袈裟に言うとこれには智也の未来が懸かっていると言ってもいい。
ことり「実はね……」
果たして彼女のお願いとは。
ことり「お願いっ、藤倉君にバンドのマネージャーをして欲しいの!」
――……はい?
智也「マネージャー……?」
ことりの予想外のお願いに、智也が今まで張り巡らしていた緊張の糸がぷつりと切れた。
ことり「今度の学園祭で声楽部の人に頼まれちゃって。友達とバンド組んでるんですけど、やっぱりマネージャーが必要で……」
――うー……ん、マネージャーか
智也が考えていると。
ことり「嫌なの?」
――っ!?
切れていた智也の緊張の糸は瞬時に復活した。
まるたに「やりますっやりますっ。と言うより、やらせて下さい!」
もう智也の体は冷や汗でびっしょりだ。
ことり「ありがとう!。じゃあ、次の練習からよろしくね」
智也の手を握りながら本当に嬉しそうに言うことり。
智也「……ああ」
そしてことりは、それじゃ、と笑顔で手を振りながら去って行った。
――……た、助かった……のか?

その頃みんなはまだ卓球をしていた。
眞子「やったー!」
萌「眞子ちゃん凄いですー、これで四連勝ですねー」
信「く……強い」
丁度眞子が圧倒的強さで信を倒し、四連勝を成し遂げた所だった。
これで眞子は、師走、さくら、美春、そして信に余裕で勝ち、純一兄弟と智也、ことり、そして、ルールをあまり理解していない萌を除けば、残りは先程まで美春に卓球のやり方を教わったばかりのアリスだけとなる。
美春「眞子先輩強すぎですよー……月城さん、頑張って下さい!」
アリス「……はい」
智也「ん?月城と眞子がやるのか?」
戻ってきた智也は横にいる師走に訊いた。
師走「ああ。ところでお前、何処行ってたんだ?今まで見なかったけど」
智也「ああ、ちょっと、飲み物を買ってたんだ。ほら」
そう言って師走にコーラを渡す。
師走「お、サンキュ。……しかし、俺と信でさえ全く歯が立たなかったんだ。ましてやさっきやり方を覚えたばかりの月城が敵う相手じゃないな」
智也「……いや、師走、前見てみろ」
師走が言われた通り前方の卓球台を見ると、そこには信じられない光景があった。
なんと、アリスがあの眞子と互角に渡り合っているのだ。
眞子の左右に放つ強い打球を、体系を生かした素早い動きで次々と返して行く。
師走「マ……マジか……」
目の前の光景に唖然とする師走。
智也「月城なら、もしかすると眞子に勝てるかもな」
杉並「ふ、藤倉。お前なら簡単に水越に勝てると、俺は思うがな」
突如現れる、毎度お馴染みのこのパターン。
智也「……何故だかはあえて訊かんが、お前はどうなんだ?」
杉並「くっくっく……ここを俺の勝利の花で飾ってやろう」
――……こいつだけはやらせないでおこう
智也は密かにそう思っていた。

その頃、純一は音夢と一緒にいた。
純一「月城もなかなかやるな。なあ?音夢」
音夢「……そうですね」
そう答える音夢だが、何処となく表情が暗い。
純一「ん?どうした音夢?具合でも――」
音夢「兄さん」
純一の言葉を遮る音夢。
純一「何だ?」
音夢「その……やっぱり、男の人って胸が大きい方が良いのかな?」
純一「……えっ?」
急速に顔が赤く染まっていく純一。
純一「そ、そりゃ……気にならん訳ない、けど」
音夢「けど?」
純一「そんな体系とかじゃなくて……その、なんつーか」
しばらく考えた純一は拳を握り締め。
純一「やっぱ中身、ハートだハート!」
――……うう、言ってる自分がもの凄く恥ずかしい
音夢「兄さん……」
純一「でもまあ、お前はもっと食った方が良いかもな。じゃないと成長するとこもしなくなるぞ?」
音夢「……」
和らぎだした表情が引きつっていく。
音夢「兄さんっ」
あさくら「は……はは、冗談だ、冗談。……ほ、ほら、卓球も終わったみたいだし、そろそろ帰ろうぜ」
苦笑いを浮かべながら言う。


帰り道。
萌「それでは、私達はこれで……」
眞子「それじゃあねー」

美春「さようならですー、音夢先輩―」
手を振りながら言う美春。
音夢「うん、バイバイ美春」
アリス「さようなら」
ぺこりとお辞儀するアリス。

師走「さて、と、俺と信はこっちだから。じゃあな」
信「失礼する」

ことり「じゃあ、私、こっちだから」
智也「ああ、気をつけてな」
ことりは少し行った所で思い出した様に立ち止まり、振り返った。
ことり「藤倉君、約束忘れないでねー」
そう言って、帰って行った。
杉並「ん?藤倉、彼女と何か約束でもしたのか?」
智也「な、何でもねーよ」
杉並「……ゆすられでもしたか?」
智也「な……お、お前には関係ないだろっ」
杉並「それもそうだな、では、俺はこれで失礼する」
純一「じゃあな藤倉。俺達こっちだから。おい、さくら。しっかり歩かないと危ないぞ?」
さくら「うにゃー……」
さくらは遊び疲れたのかふらふらしている。
音夢「さようなら、藤倉君」
智也「ああ、じゃあな」
純一達と別れた後。
――……マネージャー……か
智也は少し楽しみにしつつ、家路に着いた。

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