小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene02

工藤「それにしても……」
杉並「今年は何か起こるのか?」
朝の桜並木、工藤と杉並は一緒に並んで歩いている二人の男を見て言った。
純一「俺だってギリギリまで寝てたいけど……音夢の奴がなぁ……」
そう言うと純一は眠たそうにあくびをした。
杉並「まあ、朝倉には朝倉妹がいるから分からんでもないが……しかし」
そう言うと智也の方を向く杉並。
工藤「藤倉は家族の人と一緒に住んでいるのか?」
杉並が口を開く前に工藤が訊いた。
智也「いや、一人暮らしだけど」
と、首を振りながら答える。
杉並「一人暮らしのお前が、なぜ急に普通に登校できるようになったのか?」
智也を指差しながら言う杉並。
智也「人を指差すな!……それに、朝早くなったのは単にこの所夜更かしをしなくなったからな」
工藤「という事は、今まではしてたのか?」
まあな、と答える智也。
智也「まあ、明日の今頃、ここにいるかは断定できないけどな」
純一「一体何をしているんだ?」
智也「ん?校門に誰かいるぞ」
純一の言葉を無視した智也は目を凝らしながら言った。
見ながら近づくと、女子生徒が何かと格闘戦をしているようだ。
「やーめーてー、食べないでー」
智也「ん?……あれは、やぎ!?」
何とその少女は何故かヤギの銜えている紙を引っ張っている。
杉並「ん?ヤギだと……もしや」
杉並は呟くと足早にそのヤギに近づいた、三人もそれに続く。
杉並「おお、やはり長官でしたか」
近距離でヤギを見た杉並は言った。
純一「長官?」
三人は改めてヤギを見た。
そのヤギは目つきが悪く何とも感じの悪いものだが何処から如何見てもただのヤギにしか見えない。
工藤「とにかく助けよう」
工藤はそう言うと智也、純一も一緒にその子とヤギを引き離そうと近づく。
その時だった。
杉並「やめろ!!長官に気安く触れてはならん!」
急に声を荒げる杉並。
三人は驚き、ヤギから離れて杉並を見ると、杉並は柄にも無く真剣な顔つきをしていた。
杉並「ここは俺に任せろ」
そう言うとヤギに近づき。
杉並「ブリッヂ長官、ここは私に免じて……はい、すみません」
なにやら意味不明な事を話している杉並、はたから見ればあのヤギと会話をしているようだ。
そして数分後、杉並の説得が実を結んだのかヤギは銜えている紙を全て食べ尽くし、一鳴きした。
杉並「ささっ、長官、参りましょう」
「メェ〜〜」
そして杉並と、杉並曰く「ブリッヂ」と言うヤギは何処かへ消えた。
純一「何だったんだ?」
智也「ヤギだよな……どう見ても」
工藤「そうだな……あ」
一人と一匹が去って行った方向を見つめていた三人だが、工藤は思い出したように後ろにいる少女を見た。
その少女は、何やら真剣にメモを取っているようだ。
工藤は何をメモしているのか、気になりはしたが、とりあえず三人は周辺に落ちている紙……何かの原稿用紙みたいな物を拾い集め。
工藤「はい、これ……君のだよね?」
と、彼女に手渡した。
「あ、はい……ありがとうございます……あ!」
必死にメモを取っていたその少女は何かに気付いたのか急に声を上げ。
「あ……あの、もしかして、見ました、これ」
と、恐る恐る訊く。
工藤「え?ああ、ううん、見てないけど」
その少女は工藤の言葉を聞き、ほっとしたように溜め息をついた。
「どうもありがとうございました……あの……」
工藤「あ、そう言えばまだ名前言ってなかったね」
その少女は制服のリボンの色で同じ学年だと言うことは分かったが、流石に名前までは三人とも知らなかった。
工藤「俺は、工藤叶、一組の」
純一「同じく一組の朝倉純一だ」
智也「さらに同じく、一組の藤倉智也だ」
「私は、三組の彩珠ななこです」
工藤「それと……」
工藤は杉並が去って行った方向を一瞥し。
純一「さっきまでいた変なのは、一応友達の杉並だ」
ななこ「一応?」
ななこが首を傾げながら、純一の言葉を繰り返す。
智也「まあ、細かい事は気にするな……それより」
と、ななこの持っている原稿用紙を見て。
智也「それって、大切なものだよな……結構喰われちゃってるみたいだけど」
最初どの位あったのかは分からないが、周辺に散らばっている紙くずの量からして、相当な物だったのだろう。
少なくとも友達の知り合いがやらかした事なので、三人は何となく悪い気がしていた。
ななこもそんな空気を察したのか。
ななこ「いえ、気にしないで下さい……また徹夜すればいい事ですから……」
工藤「徹夜?」
ななこ「せっかく今日からぐっすり眠れると思ったのに……」
純一「ぐっすり眠れる?」
よく見ると、睡眠不足のせいか、ななこの目は充血しており、どことなく疲れているみたいだ。
工藤「それは……なぜ?」
ななこ「え!?あわわわ……もしかして聞こえちゃったりしましたか?」
工藤の質問に慌てて聞き返すななこ。
智也「もうバッチリ」
本人は独り言のつもりだったらしいが、三人にはしっかり聞こえていた。
ななこ「えーと……何でも、ないです」
と、目を泳がせ、言うななこ。
かなり動揺している事は分かるが、本人がそう言っているのだからと、三人はこれ以上訊かなかった。

放課後

師走「信、これからどっかいかねーか?」
それを訊いた信は片手に持っている箒を上に上げ。
信「悪い。俺、今日掃除当番」
師走「マジか……じゃあ」
と、教室を見回す。
師走「あれ?砌は?」
信「あいつは昨日から部活だろ?」
そうだった……と溜め息をつく師走。
師走「帰るか……」
一人教室を出た。
「藍澤せんぱーい!」
師走が廊下を歩いていると急に後ろから名前を呼ばれた。
師走「ん?天枷か」
師走が振り返ると美春が走りながらこちらにやって来る所だった。
――走ると危ないぞー
そう師走が思っている矢先。
どてっ……ズザサー……
見事なヘッドスライディングだった。
師走「お、おい、大丈夫か?」
師走は慌てて美春の元へ駆け寄る。
美春「えへへ……大丈夫です」
と、服に付いた埃を払いながら美春は起き上がった。
師走「で、どうしたんだ?」
美春「いえ、体育館裏に行く途中でしたんですけど、藍澤先輩を見かけましたので」
師走「体育館裏?」
美春「はい、美春とは隣のクラスに、月城アリスさんって言う子がいるんですよ」
美春の話だと、何でもその月城アリスと言う子は、常に人形を持ち歩いていて、さらにその人形が喋るらしい。
師走「それは……腹話術かなんかか?」
美春「それはよく分からないんですよね」
さらに、そういう事もあってか、彼女には親しい友達はいないらしく、模しろ、みんな気味悪がって近づこうともしないらしい。
美春「それで、美春が月城さんとお友達になりに行くわけですよ」
大まかな美春の話で内容は大体理解したが、師走はどうしても分からない事が一つあった。
師走「何で体育館裏なんだ?」
みはる「それはですね、美春も詳しい事はよく分からないんですけど、月城さんは放課後よく体育館裏にいるみたいなんです」
師走「そうか……よし!」
美春「何が……よし!なんですか?」
師走「その月城の件、俺も付き合うよ」
すると美春は目を輝かせ。
美春「本当ですか!?だったら行きましょう!今すぐ行きましょう!」
師走「な!?お、おい……」
師走は美春に引っ張られつつ体育館裏に向かうのだった。

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