小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene03

師走「誰もいないな……」
美春「そうですね……あれー、おかしいですねー……」
二人は大して広くない体育館裏を見回した。
なぜ,彼らがこんな場所にいるのかというと。
それは数分前、師走が帰る途中に美春に会い、彼女が二年の間では結構噂になっていると言う月城アリスに会いに行くと言うので、それに付き合っているのだ。
しかし、来てみたはいいがそれらしき人影は見当たらない。
師走「今日は来てないんじゃないか?」
美春「そうかも……」
二人が諦めて帰ろうとした。
その時。
「そこっ、動かないで!!」
師走・美春「え?」
どこからか聞こえて来た声に二人は立ち止まり、声のした方を向いた
そこには銀髪で鳶色の目をしていて、両手に人形を持った少女が屈んでいた。
「足元だよ、足元!」
師走「足元?」
師走は人形から発せられた言葉に戸惑いを感じながらも自分の足元を見る。
師走「……草?」
「草じゃないよ!それは、アリスが一生懸命育てている花だよ、だから、踏んじゃ駄目だよ」
師走「あ、ああ……悪い」
美春「あなたが月城アリスさんですか?」
「そうだよ」
その人形が、少女の代わりに答えた。
美春「そのお人形さんのお名前は何て言うんですか?」
「ボク?ボクはピロス、アリスの思っている事を、アリスの代わりに話しているんだ」
ピロスと言う人形は得意気に言った。
美春「いつもこのお花のお世話をしているんですか?」
美春の言葉に小さく頷くアリス
美春「よかったら、美春達もお手伝いしていいですか?」
美春が言い終わるとアリスは意外そうに顔を上げた。
でもすぐに顔を下げ。
「うー……ん」
と、人形が考え込んでいる。
美春「駄目……ですか?」
「あんまり人には知られたくないんだけど……あなた達は大丈夫そうだから……いいよ」
そんなピロスの言葉を聞いた美春は目を輝かせ。
美春「本当ですか!?じゃあ、何かお手伝いする事はありませんか?」
「もう、水もあげたし……今日は何もする事は無いよ」
師走「そうか……じゃあ、明日からでも、何か手伝いに来るよ、なあ、天枷」
美春「はい!月城さん、一緒に頑張りましょう!」
こうして、美春と師走はアリスの手伝いをする事になった。

次の日の教室

智也「はあ……はあ……間に合ったか?」
工藤「いつもの朝に戻ったな」
杉並「そのようだな……ところで朝倉」
杉並は思い出したように純一の方を向く。
純一「何だ?」
杉並「実は面白い企画があるのだが、お前も参加せんか?無論、藤倉もだ」
純一「またくだらん企画の間違いじゃないのか?」
智也「ああ」
二人がそう言うのも、杉並は以前に「白河ことりはこの一年に何人に告白されるか?」と言うクイズ企画を持ち出したという前科があるからだ。
杉並「ふ、白河ことりの件は簡単過ぎたからな、今回のクイズ大会は少し難易度を上げておいた」
そう言って、一枚の紙を取り出す。
杉並「水越眞子は卒業までに何人の「女子」に告白されるか、だ」
純一「は?」
智也「なぜ「女子」何だ?」
すると杉並は「簡単な事だ」と人差し指を立てて。
杉並「水越が「女子」……それも後輩から異常なほどの支持を受けているのは一部の間ではかなりの噂になっているからな」
さらに杉並は「それよりも、もっと分かりやすい理由がある」と、付け加え、持っている紙をヒラヒラさせ。
すぎなみ「もし、この対象を男子にしたら、正解が余りに少な過ぎて、問題にならんではないか――ん?」
杉並は言い終わると体を少し後ろに反らした。
その瞬間、杉並の顔のすぐ前を何者かの拳が過ぎた。
眞子「何言ってんのよ!」
眞子はそう言いながら杉並にもう一発拳を繰り出した。
杉並は余裕でそれをかわす。
杉並「ふ、何年お前と連れ添っていると思っているのだ、水越、口より先に手が出るその性格の事など、とうの昔に承知済みだ」
杉並はさらに「つまり」と付け加え。
杉並「お前のパンチは俺には一生かかっても当たらんと言う事だ」
と言いつつ、さらに繰り出された眞子の攻撃をかわす。
眞子「何で当たらないのよー!!」
杉並「何度やっても無駄だ水越!はっはっはー!はっはっはーー!!」
杉並は高笑いしながら眞子の攻撃を掠る事無く全てかわした。
杉並「さて、余興はこれ位にして、そろそろ本題に入ろう」
智也「これが本題じゃなかったのか?」
智也は方で息をしている眞子を片目に見ながら、溜め息混じりに言った。
杉並「この情報は、今朝職員室から直に仕入れた物なんだが……」
杉並は智也を軽く無視すると。
杉並「どうやら今日、三組と四組に転校生が来るらしい」

その頃、四組では。
先生「みんなももう知っているとは思うんだが……うちのクラスに転校生が来ている、じゃあ、入ってきて」
「はい」
短い返事の後に入って来たのはどこか古風な感じのする少女だった。
「胡ノ宮環と申します、皆さん、よろしくお願いします」
パチパチパチ……
そう言って環はお辞儀をすると、歓迎の言葉やら、馬鹿げた男子達の声が教室中に響いた。
その後環は、教室内をきょろきょろ見回し始めた。
先生「ん?胡ノ宮、誰か探しているのか?」
環「あの、このクラスに、杉浦様はいらっしゃいますか?」
環は何故か砌の名前を発した。
先生「杉浦なら、確かにうちのクラスだが……伊波瀬ー」
砌「……はい」
先生「胡ノ宮がお前を探してたみたいだぞ」
――俺を?
砌は改めて環を見た。
どんなに昔を思い起こしても、砌は彼女に会った記憶がない。
それどころか、砌がいる事を確認した環はさらにとんでもない事を言い出した。
環「私は……杉浦様の許婚です!」
――……は?
砌を含めた、教室全体の時が止まった。
師走「な……な、砌お前、いつの間に……」
時が動き出した瞬間、クラスのほぼ全員、砌に注目した。
砌は確かに容姿端麗でスポーツ万能と、そう言う話があっても、さしておかしくはないのだが、彼は普段、師走や信達と話している以外はほとんど喋らず、全体的には近寄り難いオーラが出ていたためそう言う噂は今まで全く無かった。
その中で、環の許婚発言は四組にかなりの衝撃を与えた。
信「砌もなかなかやるな」
砌「そんな約束をした覚えはない……」
先生「じゃあ、胡ノ宮はあそこの席だからな」
環「はい」
こんな状況でありながら担任はてきぱきと事を進めた。
――なんて教師だ
環「杉浦様、よろしくお願いします」
環は自分の席に行く途中、砌の席で立ち止まり、軽くお辞儀しながら言った
砌「だから、俺はそんな事をした記憶は……」
先生「はい、その件は休み時間にでも二人で話し合って解決するように、号令」
と言う事で、波乱のホームルームは幕を閉じた。

休み時間。

音夢「兄さんは転校生を見に行かないんですか?」
純一「ん?」
ホームルームが終わった後、各クラスの何人かは今日来た転校生を一目見ようと、三組、四組の各教室に行っていた。
純一「かったるいからいい」
杉並「朝倉」
そんな純一兄妹の所に杉並がやって来た。
純一「どうした?」
杉並「どうやら三組の転校生は帰国子女らしくてな、この時期の編入といいなにやら陰謀の匂いがする、面白そうなので見に行こう」
一体この学園でどんな陰謀を張り巡らすやらは分からないが、いつになく杉並の目は活気を帯びていた。
純一「はあ?」
とりあえず見に行く事にした三人は廊下に出て三組の前を見た。
そこには何やら人だかりが出来ていた。
「はなせーー!……うわ、引っ張るなーー!!」
どうやら今日来た転校生が洗礼を受けているようだ。
「はなせーー……はなせやーーー!!!」
純一「杉並、これのどこがそんなに面白――っ!?」
音夢「え!?」
純一と音夢は人だかりから顔を出した少女を見て絶句した。
純一「さ、さくらんぼ!?」
「あ、お兄ちゃんだー!」
と言って、純一に抱きつこうとした、その瞬間。
ガシッ
「うにゅーー……」
純一に飛びつこうとしたその少女の頭を音夢の手が抑える。
杉並「おお、見事なカウンターだな」
音夢「おほほほ……なんか、手が勝手に」
「うにゅーー……酷いよ、音夢ちゃんー……」
純一「いや、ちょっと待て!」
純一はもう一度その少女を見て。
純一「お前、本当にあのさくらんぼなのか?」
さくらんぼ……その名は、六年前、突然アメリカに渡ってしまった純一と音夢の幼馴染、芳乃さくらに純一がつけたあだ名である。
さくら「あ、懐かしいね、その呼び方」
音夢「兄さん、この子本当にさくらちゃんだよ」
純一「いや、待て音夢、いくらなんでも、この大きさは無いだろう」
そう言いながらさくらの頭に手を置く。
純一達がなぜ素直に彼女がさくらだという事を信じられないでいるのかと言うと、それは彼女の慎重にあった、彼女はどう見ても、六年前、つまり小学生の時から、ほとんど身長が変わってないのだ。
さくら「人の身体的特徴をけなす人嫌い、でも、お兄ちゃんは好きー」
と言って純一に抱きつく。
純一「うわ、君、冗談は止せ、君はさくらの妹か親戚か何かだろ!?」
さくら「えー、ボクはボクだよー」
一向に放そうとしないさくら
「何やってるんだ?朝倉」
純一「な!?こ、暦先生」
白河暦。純一達のクラスの担任で今年から産休の講師の代わりに臨時講師として風見学園に赴任してきた、ちなみにことりのお姉さんでもある。
暦「若気の至りも良いが、時と場所を考えろ」
純一「なっ、俺はそんなじゃ……」
音夢「はいはい、さくらちゃんはあっちのクラスでしょ」
さくら「あ、ボク勉強しなくちゃ、じゃ、お兄ちゃん、また後でねー」
暦「はいはい、見せもんじゃないよ、早く自分の教室に戻って」
暦先生の言葉を聞きながら。これからの学園生活を案ずる純一であった。

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