小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene20

校舎内外に数多く並ぶ模擬店のどれもが学園生徒や一般の人々で大いに賑わっている。
今年の風見学園祭は例年通りの賑わいを見せていた。
そんな人々と同様、師走とアリスも両側に並ぶ模擬店を見ながらぶらぶらしていた。
師走「今年もかなり出店したんだな」
アリス「そうみたいですね。すごいです」
音楽部や手芸部などの例外はある物のほとんどの部活がそれぞれ部費獲得の為に模擬店を出店している。しかも、人数の多い部活動はその人の多さに物を言わせ広範囲に数店舗出している所もある。
師走「お?あそこにいるのは砌と胡ノ宮さんか?」
各店に群がる人々の中で二人の前方に並んで歩いている砌と環がいた。
師走「よう、楽しんでるか?」
砌「ん?師走か」
環「月城さん、おはようございます」
アリス「おはようございます。胡ノ宮先輩」
師走「信は一緒じゃないのか?」
砌「ああ。あいつは、何か店を出すとか言ってたな」

今日の朝。

信「今日は、待ちに待った学園祭だな」
砌「やけに嬉しそうだな」
信「なんせお祭りだからな」
砌「お前、杉並に加担する気か?」
こういった行事に杉並が悪事を働くというのはもう学園では常識の域に達している。
信「いや、俺は俺で店でも出そうかと思ってな。もし暇なら寄ってくれ」
アリス「どんなお店なんですか?」
砌「さあな。俺が訊いても教えてくれなかったな」
環「それでしたら、今から行ってみるというのはどうですか?」
師走と砌は少しの間考え。
砌「いや……おそらく行かない方が良いだろう」
師走「だな。あいつの事だ、そこら辺の店とは悪い意味で違う事をしていると思う」
環「そう、ですか」
心なしか残念そうな環。
師走「そ、そんな事より、どうだ?月城と胡ノ宮さんはここの学園祭は初めてなんだろ?」
アリス「はい。たくさんお店があって楽しいです」
環「そうですね。学園全体が盛り上がってて、いるだけで楽しい気持ちになります」
砌「そうか」
師走「まあ、ここは祭りが大好きだからな」
風見学園では、クラス行事や学園全体の行事はほぼ全て中央委員会や風紀委員会を始めとした生徒が運営を任されているため、学園祭の出し物についても、風紀委員の審査以外は特に規制はなく審査も余程危険じゃない限りほぼ全部が通るので、他校じゃあまり見られない出し物が数多く出されている。
師走「そう言えば、胡ノ宮さんも月城も前の学校でも学園祭はあったんでしょ?」
ピロス「アリスは、ここに来る前は外国にいたんだよ」
師走「へぇ、そうだったんだ」
ピロスの意外な発言に少なからず驚く他の三人
環「どこの、お国なんですか?」
アリス「スイスに、いました」
アリスの発言に再び驚く。
砌「ん?月城、どうした?」
よく見るとアリスの表情は沈んでいた
アリス「いえ。ただ、あっちではあまり楽しかった思い出はなかったので……」
沈黙する四人。
アリス「ご、ごめんなさい。変な空気になってしまいましたね」
師走「いや、悪い事訊いたな。ごめん」
アリス「いいんです。気にしてませんから。それに、今は先輩達のようなお友達がたくさん出来て、毎日が楽しいです」
砌「……そうか」
環「過去がどうであれ、今、たくさん良い思い出をいっぱい作っていきましょう。月城さん」
アリス「はい」
しっかりと頷くアリス
砌「それで、胡ノ宮の所はどうだったんだ?」
環「え?わ、私の所、ですか?」
師走「うん」
環は少し間を置いたが。
環「わ、私が前にいた学校も、ここほどではないのですが、とても盛り上がってました」
と、いつも通りの笑顔で言った。
砌「……」
他の二人は気付いてないのだろうが、砌は一瞬環の口調、表情が暗くなっていたのを見逃さなかった。
――月城と同じみたいなものか
と、今訊いて場の空気を崩すのも悪いと思った砌はあえて口には出さなかった。
環「ところで、皆さんはこれからどうしますか?」
砌「そうだな……。一時からは藤倉から白河さんのコンサートに来るよう言われてるからな」
師走「じゃあ、それまでみんなで回ろうぜ」
アリス「そうですね」
その頃、純一と智也は廊下を歩いていた。
智也「でも、天枷にしろ朝倉さんにしろ、こんな時まで良くやってるよな、今になって感心するよ」
純一「ああ、でもあいつ、今度こそは杉並を捕まえるって張り切ってたからな」
そんな言葉を交わしている二人を時々風紀委員がなにやら無線を使いながら走りすぎて行く。
純一「でも、いいのか?こんなとこにいて」
智也「ああ、何でも衣装を試着したいとかで、終わるまでそこら辺ぶらつこうかな、と」
純一「へぇ。で、どうなんだ?」
智也「ああ、最高だよ。ラスト一回で完璧に決まったんだ」

昨日の放課後。

この日も音楽室にはことり達の演奏が響き渡っていた。
そして、演奏が終わり。
智也「すごい!すごいよ、三人とも」
智也は今の演奏の率直な感想を言った。
ことりの歌声に二人の演奏がマッチし一言では言い表せないほど完璧な演奏だった。
ことり「最後の最後で決まっちゃいましたね」
みっくん「今のはよかったね」
ともちゃん「うん。今までで一番じゃないかな?」
智也「これで、明日の本番もバッチリだな」

純一「へぇ、それは楽しみだな」
智也「ああ、絶対聞いて良かったって思うぞ」
杉並「すっかりマネージャーが板に付いたようだな。」
そんな事を話している二人の前に風紀委員の今回必要以上に走り回っている唯一且つ最大の原因が現れた。
智也「誰かと思ったら……お前か」
杉並「おお、そんなに俺と出会えた事が嬉しいか!」
杉並は最高の笑顔を見せながら智也の肩に腕を回した。
智也「いやいや……全くの正反対、お前の考えとは180度違うから」
だるそうに手を左右に振りながら答えた。
そ言った杉並は、そんな事より、と付け加え。
杉並「お前たちは今回手芸部が主催するミスコンがかなり興味深い事になっているのは知っているか?」
二人とも少し考え。
智也「何が興味深いんだ?」
杉並「メンバー、だ」
そう言いながら不適に笑みを浮かべる。
純一「……誰が出るんだ?」
杉並「学園のアイドル、白河ことりは勿論の事、俺が事前に手芸部に根回ししておいた朝倉妹と、水越眞子、芳乃嬢がエントリーするそうだ」
それを聞いた二人は驚き。
純一「ね、音夢にさくらが出るのか?」
智也「まさか眞子まで出るとは……」
杉並「水越が出ることで観客の女子の比率が格段に上がる事が予想されている」
そう言いながら、面白くなりそうだ、と微笑する杉並。
純一「まあ、それはそれとして。お前、こんなとこにいて大丈夫なのか?」
杉並「ふ、脱出ルートは既に確保してある。仕込みを済ませれば、今回の祭りは準備完了だ。それに、朝倉妹がいない分、随分と楽だからな」
智也「一体今回は何をやらかすつもりだ?」
杉並に肩を組まれたままの智也が訊いた。
杉並は少し間を置き。
杉並「本来はトリプルS級の最高機密なのだが……。今日は祭りだ。特別に教えてやろう」
そう言うと純一の方を向き。
杉並「まずは、今回の目玉、ミスコンで事前に出場させておいた朝倉妹を使って、観客たちに貴重な彼女のあられのない姿を……」
そこまで言った杉並は急に口を閉じた。
杉並の目線の先には風紀委員と思われる男子生徒二人を連れた美春が猛スピードでこちらに走ってきている。
美春「杉並先輩!お覚悟を!」
杉並「ふむ、そろそろ潮時か。わんこ!お前如きに捕まる俺ではない!」
純一「……」
智也「……」
純一は智也を見て、智也はゆっくりと頷いた。
杉並「何!?」
逃げ出そうとし、智也から離れようとした杉並の腕をがっちり掴む。
杉並「な、何の真似だ?我が同志達よ」
純一「美春、早く他の奴らも呼んで、こいつを連れて行ってくれ」
杉並を無視した純一がそう言うと。
美春「はい!こちら天枷、目標杉並先輩を確保しました。至急応援に来てください!」
そう無線で他の風紀委員に連絡したかと思うと、どこからともなく他の委員達が現れ、杉並の周りを完全に包囲した。
良く見ると風紀委員だけではなく中央委員会も混じっているようだ。
どうやら学園全体に配置していたらしい。
杉並「く……まさかお前らが風紀委員の犬だったとはな。迂闊だった。あれは冗談だというのに……」
純一「お前の言う事は冗談に聞こえないんだよ」
智也「悪いな。これも学園の平和の為だ」
美春「藤倉先輩、朝倉先輩、ご協力、ありがとうございました。それでは、美春は杉並先輩を護送しますので」
杉並「ふ、わんこ……お前もなかなかやるではないか」
美春「そうやって余裕な顔していられるのも時間の問題ですよ?杉並先輩には学園祭が終わるまで、じっとしててもらいますから」
そう言うと何重にも手錠を掛けられ、体中を鎖で巻かれた杉並と共に去って行った。
これで、悪の野望は断たれただろう。
智也「さて……俺もそろそろ戻るか」
純一「そうか。じゃあ、俺はそこら辺の屋台でも回るか」
そう言うと二人はそれぞれの目的の場所へ歩き出した。

-20-
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